二千三百四十 SANA編 「少しほしいかな」
十一月二十三日。水曜日。雨。
今日は勤労感謝の日。
「沙奈子は、千晶さんのことをどう思う?」
人生部の活動を終えて千早ちゃんたちが帰った後で、みんなでリビングに集まって僕は沙奈子にそう聞いてみた。それに対して彼女は、少し思案した上で、
「正直、よく分からない……」
と応えてくれた。これ自体、沙奈子の本音だと思う。まだ恋愛についてさえ実感のない彼女が、セックスや妊娠やましてや堕胎のことについてなんて、どこか遠い世界のことのように感じてるんだろうな。でも、同時に、
「だけど、私はそういうのは嫌だって気がする……。そんなに好きでもない人と付き合うとか、子供ができるとか、考えたくない……。気持ち悪い……」
言いながら沙奈子は、自分の左手をぎゅっと握った。強いストレスが掛かった時に出る『癖』だった。それが限度を超えると、かつての、『自分の左腕をボールペンで容赦なく突く』みたいなことになるんだろうな。
でも今はまだそこまでじゃないという印象もある。
加えて沙奈子は、『男性』そのものを嫌悪してるわけじゃないというのも確かなんだ。大希くんに対しても結人くんに対しても一真くんに対しても、別に嫌悪感のようなものは見せてない。三人と一緒にいる時にも、話している時にも、別に左腕を握りしめるような様子はないんだよ。表情も穏やかだし。だから、ちゃんと信頼できてる相手なら大丈夫なんだ。ただあくまで、
『そうじゃない相手と深い関係になるとか有り得ない』
と思ってるだけだと感じる。すると玲緒奈が、
「さーちゃん、よしよし」
って沙奈子の頭を撫でてくれた。沙奈子が少しつらそうにしてるのを察したんだろうな。そういうのを感じ取れる子なんだっていうのがすごく分かる。
そこに絵里奈が、
『そうだね。沙奈子ちゃんはそれでいいと思う。好きでもない人と結婚とかする必要はないし、子供だって要らないなら無理に生む必要はないよ』
穏やかに諭すように言ってくれた。これは僕も同意見。僕は絵里奈と結婚して玲緒奈にも来てもらったけど、だからって僕や絵里奈と同じようにしろと言うつもりもないんだ。そもそも僕だって、絵里奈と出逢ってなければ今でもきっと結婚なんてしてない。
けれどそれに対しては、
「子供は、少しほしいかなって思う……。玲緒奈も可愛いし、お父さんやお母さんがいてくれたら私にも育てられるかなって思えるから」
だって。すると今度は玲那が、
「あ~、それは分かるよね。パパちゃんや絵里奈を見てたらさ、『子供がいてもいいかな』って思えるよね」
と言ったんだ。




