二千三百二十九 SANA編 「選ぶはずがないと」
十一月十二日。土曜日。晴れ。
『どうして千晶さんのところに……』
そうだよ。今回のことを考えただけでも分かるじゃないか。千晶さんは妊娠なんか望んでなかった。妊娠したら堕胎することを真っ先に考えた。
子供が親を選んで生まれてくるって言うのなら、どうして千晶さんのところになんて来たの?。どうして千晶さんが妊娠したの?。おかしいよね?。生まれることもなく殺されるのに。自分で親が選べるのなら千晶さんを選ぶはずがないと思うんだけど?。
子供を生むというのは、どんなに言い訳しても、どんなオカルトを並べても、百パーセント『親の勝手』だよ。それ以外はない。オカルトに逃げるのはただの『甘え』だとしか思わない。
人間は元々そんなに強い生き物じゃないからついつい甘えてしまうのも事実だと思うし、『何一つ甘えることを許さない』なんてのも現実的じゃないと思う。だから甘えることがあるのは仕方ないとしても、それを言い訳で正当化しようとするのは違うんじゃないのかなって思うだけなんだ。
僕だって、『事件を起こして有罪判決を受けた前科持ちの血の繋がらない姉』と『実の父親に捨てられた、血縁上は従妹にあたる姉』がいるなんて複雑な事情を抱えた家庭に玲緒奈を迎えたんだ。それを分かってて来てもらった。これを『甘え』だと言われたらなるほどそうだと思う。思うからこそ、玲緒奈が大きくなってそのことで僕を責めるとしても、甘んじて受け止めるしかないと思ってるんだよ。そんな家庭に玲緒奈を迎えたのは僕の勝手なんだから。
玲緒奈がそれを望んでうちに来たわけじゃない。
千晶さんの妊娠一つ取ったって、子供に来てもらうかどうかについては親の勝手以外の何物でもないって分かるじゃないか。
まだ、千晶さんは結論を出してないらしいけど、そのことで千早ちゃんが焦れてる様子はあるけど、生むにしても堕胎すにしても、それは親の勝手だよ。子供自身の意思はまったくそこに関わってない。そうやって親の勝手でこの世に来てもらった子供を育てるのは、親自身の行いの後始末でしかないよ。
そして千晶さんはそれをしたくないから堕胎しようと考えてる。この中のどこに、『子供自身の責任』があるの?。子供自身の意思は一切介在できないのに、責任だけは負わせるって言うの?。自分では何もできない状態で生まれてくる子供に。
どうしてその事実から目を背け続けるのか、僕にはまったく理解できない。その事実と向き合うこともできないような大人が何を偉そうにできるのか、まったく理解できないよ。




