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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百三十二 玲那編 「降りだした雪」

火曜日。朝。今日から沙奈子も学校だ。お道具箱、上靴、体操服と、持っていく荷物は多くて大変だけど、それはたぶん他の子も同じだから仕方ないよね。


「今日からまた、学校が終わったら大希ひろきくんのところで、お母さんかお姉ちゃんが迎えに来るまで待っててね」


僕がそう言うと、沙奈子は「うん!」と大きく頷いてくれた。そして僕たちに『いってらっしゃいのキス』をしてくれた。僕たちもお返しのキスをして、「いってきます」と部屋を出た。


絵里奈は、本来なら昨日のうちに向こうの部屋に帰っているはずだったけれど、昨日が休日だったから結局は今日の朝までいることにした。しかも今回、向こうの部屋に行ってる間、志緒里しおりはうちで留守番だって言う。


「志緒里もみんなと一緒がいいって言ってますから」


だって。


人形がそう言ってたというのは、残念ながら僕にはまだ理解できそうにない。それよりは、人形がずっと傍にいないとダメっていうのがひょっとしたら薄れてきてるのかなと思った。実際のところは分からないにしても、これも大きな変化かもしれない。玲那が同じ趣味の人限定ではあっても男の人とまあまあ普通に接することが出来るようになったのと同じようなことかもと考えたりもした。


あと、今年に入ってから、向こうの部屋にいる間はスマホのアプリでテレビ電話みたいにしてずっと繋がるようにしたっていうのもあると思う。実は、僕も絵里奈たちもあんまりそういうのに詳しくなくて、最近までスマホがWi-Fiに繋げられることも知らなかった。仕事でPCを使ってるのに、スマホのことはただの『微妙に使いにくい携帯電話』としか思ってなかったから興味も無かったんだ。絵里奈も玲那もそうだった。テレビ電話みたいなことができるアプリがあるのは以前から知ってて少し使ったりしたこともあったけど、すぐにパケットを使い切って通信制限がかかるからもうそういうものだと思い込んでてずっと使ってなかったらしい。


こんな感じで、自分の興味のあることしか見てなくて、今どき常識だって言われるようなことについて変に無知なところも僕たちにはあった。玲那も、HDDレコーダーを接続する程度のことは自分でできるけど、興味の無いことはからきしダメだったりもした。それを、玲那が秋嶋あきしまさんたちから教えてもらってきて知ったってわけだ。ある意味、秋嶋さんたちと交流することにして得られた大きな収穫の一つと言えるかも知れない。


それで早速、僕たちも玲那にやり方を教わってそうした。家の中でならWi-Fiを使えばパケットとか心配しなくてもいいからね。これならいつでも話ができるし顔も見られるし。ネットの普及でそういうのが当たり前に出来るようになったっていうのは大きいなって感じた。でも一方でそれは、いくら顔が見えても触れ合える距離にいないっていうことの大きさを改めて実感させられたっていうのもあるけどさ。だから先週の木曜日、玲那が『一人でいるのは嫌』だって言って帰ってきたわけだし。まあ、あの時はまだ使い方に慣れてなくてもどかしかったっていうのもあったかもしれないけど。


とりあえずそんなこんなで、沙奈子の学校も始まったことだし、いよいよ本格的に正月気分を抜け出さないといけないと思った。


僕と絵里奈はバスで、玲那は3代目黒龍号で会社へと向かう。バスの中の空気も、どことなく『ああ、正月が終わってしまったなあ』みたいな雰囲気が漂ってる気がした。もちろん、それは僕がそう思ってるだけかもしれないけどね。


会社に着いてオフィスに入ると、すっかり机の上が綺麗に片付けられてしまった英田あいださんの席が、ぽっかりと穴が開いたみたいに感じられて胸が痛んだ。だけどそれを無視して、僕は仕事に取り掛かる。僕にできることをするだけだと自分に言い聞かせる。そして僕たちの日常も、お正月から抜け出したのだった。




仕事が終わって家に帰ると、沙奈子と玲那に「おかえりなさい」って迎えられて、テレビ電話って言うか、ビデオ通話って言うのかな?で玲那のスマホに映し出された絵里奈にも「おかえりなさい」と迎えられて、僕はまたホッとした。今日も無事に終えられたんだなと実感した。


お風呂に入った後、いつものように沙奈子を膝に寛いでると、絵里奈はビデオ通話を繋いだままにして自分の部屋の片付けをやっていた。玲那と同じように、いい物件さえ見つかればいつでも引っ越しができるようにということだった。


「要らない服とか片付けようと思ったらびっくりするくらい出てきて。ノーブランドで売り物にもなりそうにないから全部資源ゴミとして出すことになりそうです」


と、山積みになったビニール袋を背に苦笑いしてた。でもその一方で、人形の服らしい小さいのは綺麗にラックに並べられてるのが見えてた。その辺りは口出ししないでおこうと思った。


そんな感じで水曜日もやり過ごし、木曜日の夜、玲那と入れ替わりになった絵里奈が、沙奈子と一緒に「おかえりなさい」と出迎えてくれた。その二人と一緒に、今度は玲那が絵里奈のスマホの画面越しに「おかえりなさい」と言ってくれてた。


玲那もずっとビデオ通話を繋いだままにしてたんだけど、そこに映ってた部屋の様子に僕は少し驚いてた。以前のこの部屋と同じような感じの、ガランとした殺風景な感じだった。


玲那によると、アニメ関係のグッズを友達に配って要らなくなった棚とか処分したらこうなったということだった。今はもう、小さな本棚に収まる程度のDVDとマンガと着替えの一部しか置いてないらしい。つまり、玲那の部屋はそのほとんどがアニメ関係のグッズで占領されてたということか。


「いや~、狭い部屋だと思ってたけど、ホントはこんなに広かったんだな~ってびっくりしちゃった」


なんて言いながら頭を掻いてた。


その玲那も金曜日の夜には戻ってきて、また僕たちは四人に戻った。沙奈子もやっぱりみんな一緒の方が嬉しいらしくて、すごくにこやかな表情だった。


土曜日ものんびりと過ごして、しかもまた玲那と沙奈子に部屋を追い出されるようにして絵里奈とデート?に行った。『デートできる時にしなきゃダメだよ』と玲那に言われた。沙奈子も『ダメだよ』って言ってた。


でもその帰り、雪が降りだしてた。結構な降り方で、ホテルを出た僕と絵里奈はすでに真っ白になりかけた光景に『え!?』ってなってしまってた。だから今日は僕と絵里奈だけで簡単に買い物を済ませて家に帰った。スーパーでビニール傘を買って差して帰ったのにそれでも服が雪まみれになって、


「わあ、お父さんもお母さんも真っ白!」


と、沙奈子に驚かれたのだった。


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