二千二百九十七 SANA編 「別モン」
十月十一日。火曜日。晴れ。
今日から三日間、沙奈子たちが通う高校での中間考査。だから学校は午前だけで、昼には帰ってくる。そしてその分、篠原さんも少しだけゆっくりできる。
そんな篠原さんは、最近、大希くんによく話し掛けてるみたいだ。しかもその時の表情が、明らかに嬉しそうと言うか、にやけてると言うか。
「優佳あ、あんたヒロのことが好きなの?」
千早ちゃんがストレートにそんなことを聞くと、
「え!?、いや、そういうわけじゃ……!」
とは応えるんだけど、その様子がもうあんまりにもあんまりで。
「ラブコメか!」
千早ちゃんにツッコまれてた。
初めは千早ちゃんに話し掛けてもらえて友達になってもらえてそうして参加するようになった『人生部としての活動』だけど、そこで大希くんに気遣ってもらったりしてるうちに意識するようになったみたいだ。結人くんはちょっと怖い感じだし、一真くんも結人くんほどじゃないけど体も大きくて怖そうな印象があるっていうのも関係してるかな。
だけどこの辺り、沙奈子や千早ちゃんはぜんぜん目覚める気配もない。異性を意識してる様子がまったくない。しかもそれは、大希くんや結人くんや一真くんも同じ。
それでいて琴美ちゃんも結人くんを意識してるみたいだから、ちゃんとそういう人もいるってことだね。
でも、千早ちゃんは、
「なんかさあ、『女の人は優しい男の人が好き』とか『好みのタイプは優しい男性とか言う女の人がいる』みたいな話聞くけどさ、この『優しい』ってのがクソほどクセモノだと思うんだよね。そもそも男の人が思う『優しい』と女の人が思う『優しい』は別モンじゃねーの?」
やれやれと呆れたように口にした。すると結人くんが、
「だよな。男の思ってる優しいってのは、てか、『自称・優しい男』ってのはただの優柔不断だろ。でも女の言う優しいってのは、『自分の言うことを何でも聞いてくれる』ってことじゃねーか?。おんなじ『優しい』でもぜんぜん別モンだろ」
苦い表情で応えた。これに対して一真くんも、
「あ~、それって分かる気がする。うちの母親が思ってる『優しい男』って明らかに自分を甘やかしてくれるタイプだってのがすっげえ伝わってくんだよ。で、父親とすぐ言い合いになるんだ。そのクセ、似た者同士だから波長が合うみたいで別れない。まあ、今別れられたら琴美はたぶん母親のところに行くことになるし、母親は俺のことはきっと引き取らないしで、引き離されることになるからそれはマズいし、嫌だけど現状維持していてもらわなきゃって思う」
って、自分の両親のことを絡めて応えてたな。




