二千二百九十六 SANA編 「クソシナリオ」
十月十日。月曜日。雨のち曇り。
今日はスポーツの日で休日。
なんだかすごく寒くなってきた気がする。と言うよりも『寒い』。土曜日の夜は本当に寒かった。だからエアコンの暖房を少しだけど使ったり。
「でも、だからってホントに暖房入れようとするとまた急に暑くなったりするかも」
玲那が言うとおりかもしれない。まだ真夏って言っていい頃にも妙に涼しい日があったりしたしね。なんだかおかしな天気だ。
だけどそんなのは関係なく玲緒奈は毎日元気いっぱいで。また小さなホットケーキの欠片を食べてもらったら、どうやら今回も大丈夫だったみたいだ。もしかしたらあの一回で体の方も慣れたのかもしれないにしても、でもまだ油断はできない。慎重に。慎重にいく。
『なんでそこまで手間を掛けなきゃいけないんだ!?』
みたいに思う人もいるかもしれないけど、彼女をこの世界に呼んだのは僕と絵里奈の勝手だから、この世界にちゃんと馴染めるように努力するだけだよ。そのために必要な努力を怠りたいとは思わない。ましてや、今はまだ玲緒奈には自分が食べて大丈夫なものとそうじゃないものとの区別なんか付けられないからね。親である僕と絵里奈が気を付けるしかない。
玲那も言ってくれる。
「そうだよね。勝手にこんな世界に召還しておいてさ、まともなフォローもなしに『自分で生きろ』なんてどんなクソシナリオだよ?って思うもん。本人の承諾もなく一方的に召喚したんだから責任取れって話だよね。フィクションだったら別にホントに被害が出るわけじゃないけど、これは現実だから」
確かにその通りだと思う。
しかも沙奈子も言ってくれた。
「私は、お父さんやお母さんがしてくれてることを私もしなくちゃって思えるんだ。お父さんやお母さんが努力してるのが分かるから、私も努力しなくちゃって思う」
しっかりと、自分の言葉で、自分の意見として言ってくれる。
これが誰かの言ってたことのただの真似なら、ちょっと他の誰かにツッコまれたりしただけでもう答えられなくなるだろうな。だけど自分が考えてそして言葉にしてることだから、自信をもって言えるんだと思う。
だからこそ僕もそんな沙奈子に負けてられない。仮にも彼女の倍以上の人生を生きてきたんだ。それで彼女に手本も示せないなんて大人として恥ずかしいよ。沙奈子がもし将来結婚して子供ができた時に、僕や絵里奈がやってたのを参考にしてできたらそれでいいんじゃないかな。その上で、具体的にアドバイスもしよう。
ちゃんとその時点で更新された常識を学んだ上でだけど。




