二千二百九十四 SANA編 「ただの凶行」
十月八日。土曜日。晴れ。
また何か、『悪ふざけ』が原因で生徒が大きな怪我をするということがあったらしい。これについて、
『恐怖や痛みでちゃんと躾けないからだ!』
みたいなことを言ってる人がいるらしいけど、僕はまったくその考えには共感できない。
だって、その『恐怖や痛みで躾ける』という発想で行われたことで重大な結果になってる事例がどれだけあるのか考えてみるだけでうすら寒い気持ちになるんだよ。重大な結果になる危険性のある悪ふざけをやめさせるための『躾』で重大な結果になったら、何の意味があるの?。
『悪ふざけするような奴が悪いんだろ!』
って言うかもしれないけど、おかしいな。
『悪ふざけをさせないために躾けるべきだ』
って言ってるんじゃないの?。ましてや、自分の体重の半分もないような、『取っ組み合ったら絶対に負けないような子供相手に大人の力で』なんて、ただの『凶行』としか思えないんだけどな。
そんなことをしなくても、沙奈子は、『相手に痛い思いをさせるような悪ふざけ』なんてやらないよ?。そして千早ちゃんも今ではそんなことはしない。遊びでも悪ふざけでも、相手に痛みを与えることをよしとは考えてないんだ。
大希くんは今も山仁さんに力比べを挑んでるらしいけど、それもお互いに『痛みを与えるようなやり方はしない』という暗黙のルールの上でやってるって。どうしても『はずみで』ってこともあるから、『相手に痛みを与えてしまったらその時点で負け』っていう形なんだって。だから当然、痛みを与えるようなやり方はしないように気を付けるし、手加減もする。無茶もしない。それに、真っ向力比べをして勝てないのならその時点でまだまだ弱いってことだから。
『卑怯なやり方をしてでも相手をやりこめればいい』
という考え方はしないんだ。だって、大希くんがしてるのは『真っ向勝負』だから。別に『命のやり取り』ってわけじゃないから。命のやり取りだったら卑怯も何もないとしても、暗黙とはいえ『相手に痛みを与えるようなやり方はしない』というルールの上でやってることなんだから、卑怯なやり方で勝っても意味がないんだって。
バラエティ番組とかで芸人が痛がってる様子を笑うのは、それがただの演出に過ぎないから。そういう演出だと思えばこそ安心して笑ってられる。
そういうことをちゃんと考えられる大希くんなら、相手に痛みを与えるような悪ふざけはしないよね。
結人くんも、別にそんな必要もないから悪ふざけなんかしない。一真くんも同じ。
みんな、躾けられたからそうなったんじゃないんだよ。




