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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千二百七十九 SANA編 「役目が終わりに」

九月二十三日。金曜日。曇り時々雨。




今日は秋分の日。


玲緒奈れおなは朝からご機嫌でウォール・リビング内を猛然と進撃してる。だけど、以前は玲緒奈からはほとんど壁の向こうが見えなかったのが、完全に壁の上に頭が出て、それどころか登ろうとさえし始めた。今はまったく登れる気配がなくて、


「ぶーっ!!」


と不満そうに壁をバシバシ叩くだけなんだけど、


「これはいよいよ、ウォール・リビングの役目が終わりに近付いてるってことかな」


玲那がしみじみと言った。


「確かに。気付かないうちに壁を乗り越えて階段とかに行かれると困るからね」


「万が一にも勝手に階段の方に行って転落したりしたらと思うと、すごく怖いです」


僕も絵里奈もそう口にする。だからいよいよ玲緒奈が自分の力で壁を乗り越えそうになったらすべて撤去して、本来のリビングに戻そうと思う。ただし、階段とミニキッチンの方とベランダには行けないようにしなくちゃと思う。あと、風呂場にも勝手に入れないようにしなくちゃ。


何が危なくて何をしちゃいけないのかが玲緒奈自身に理解できるようになるまでは、その辺りもしっかりとわきまえなきゃいけないと思う。


『自分で痛い目を見て経験を積んでいくんだ!』


とか言ってる人もいるけど、それはただ自分が気を付けるのが面倒だからそう言ってるだけじゃないの?。玲緒奈はここまで、癇癪を起こして投げつけた玩具が跳ね返ってきて自分にぶつかったり、壁に猛烈に体当たりして弾き返されて転んだり、ちゃんと『痛い目』にも遭ってきたよ。その痛い目が命に関わるようなものにならないように気を配るのは大人の役目のはずだけどな。


投げた玩具が跳ね返ってきて痛い思いをしたからか、玩具を投げつけるようなことはしなくなったし、壁に体当たりするにも加減するようになった。僕を思い切り叩いたことで自分の手が痛くなって泣いたしまったこともあったからか、不機嫌な時に僕を叩くのも明らかに手加減してるのが分かる。命にまで関わるような危険なことをしなくても彼女はちゃんと学んでるんだよ。


きちんと玲緒奈のことを見てればそれが分かるんだ。


寝転がった僕の上に乗ってどすんどすんとはしゃぐのも、今はまだ彼女も小さくて可愛いだけだから、構わない。これが大きくなってきて苦しくなってきたら、その時には、


『お父さん、潰れちゃうよ』


と声を掛けようと思う。これは山仁やまひとさんも、イチコさんや大希ひろきくんの時にそうだったって。


もちろん、一度や二度言っただけじゃすぐには分かってくれないとしても、


「何度も、『お父さん潰れちゃうよ。かんべんして』と声を掛けてるうちにやめてくれましたよ。イチコも大希も、別に私に苦しい思いさせたいわけじゃなかったからでしょうね」


と山仁さんが言ってたみたいに、『分かってくれるまで根気強く』というのが大事なんだと思う。



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