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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千二百六十五 SANA編 「巨大で凶暴な怪物」

九月九日。金曜日。曇り。




秋嶋あきしまさんは、今もまだ完全には体調が戻ってないそうだ。ただ、少しずつマシにはなってきてるらしいから、遠からず以前に近い状態にまでは戻れる可能性が出てきたって。それを聞いて僕もホッとする。


だけど、世の中には後遺症が残った人もいるみたいだから、喜んでばかりにもいられないだろうな。だから用心はこれからも続けようと思う。マスクについても、気休めだとしても心理的な意味も含めて使っていこう。結局はこれも『気遣い』の一種だと思うんだ。


『自分は平気だから他の人も平気なはずだ』


って考えには僕は共感できない。


だってそうだよね?。僕が沙奈子を受け入れられたからって、誰でも同じことができるわけじゃないんだよね?。


『僕と同じことができるはずだ』


って言われたら嫌なんだよね?。それと同じことだと思うんだけどな。ましてや、


『周りに迎合しない自分、カッコいい!』


的な考えでやってるんだとしたら、それこそそんな人とは関わりたくないよ。僕も『自分は自分』って考えを貫いてるけど、だからって『僕と同じようにやれ』と押し付けるつもりはないんだ。『自分を貫いてるのがカッコいい』と思ってるわけでもない。


僕の沙奈子や玲緒奈への接し方について、玲那が、


「私の好きな作家さんが言ってたんだけどさ、『人間の赤ん坊が生まれるのは、異世界にいきなり転移したり転生することを考えたら、それがどういうことか分かる気がする。どんな世界か分からない、言葉も通じない、自分の感覚の一切が通用しない、しかも自分の周りにいるのは、意志疎通も満足にできない巨大で凶暴な怪物みたいな存在。そんなところにチート能力も与えられずに一方的に送り出されるんだよ?。それがどれほどの恐怖か、想像できない?』ってのを見て、私も腑に落ちたよ。パパちゃんが沙奈子ちゃんや玲緒奈に対して穏やかに接しようとしてるのは当たり前の気遣いだって。大事なのはまず、自分がいる場所が安心できる安全なところなんだってのを分かってもらうことなんじゃないかな。他のことはそれが実感できてからでいいんだと思うんだ」


って言ってくれてる。僕も『なるほど』と思えた。この世界のことを理解するのは、自分が守られてるとちゃんと感じられるようになってからでいいんだろうなってさ。それがなくちゃ、周りが攻撃的な人間ばっかりだったら、自分もそういうのを前提に対応しなきゃならなくなる。攻撃的に振る舞わなきゃいけなくなる。『この世界は油断できない』『他人は無条件に信用しちゃいけない』なんてのは、後から心掛けとして学べばいいことなんだって。


とにかくまず喧嘩腰だったり攻撃的だったりするのがやめられない人がいるのは、最初の段階でそんな風に接してこられたからなんだろうなって。



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