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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千二百六十二 SANA編 「文化祭初日」

九月六日。火曜日。曇りのち雨。




今日は沙奈子たちが通う学校での文化祭初日。『新型コロナウイルス感染症』のこともあって外から人を招いてという形にはできなかったけど、とにかく開催にはこぎつけた。沙奈子も手作りのエプロンドレスを紙袋に入れて持っていく。その様子がまたなんだか楽しそうだ。


沙奈子がそうやってイベントを楽しめるということに、なんだか胸が熱くなってしまう。僕の部屋に来たばかりの頃には、それこそ『虐待された挙句に捨てられた子犬』みたいに怯え切って暗い目をしていたのに。今でも大きな口を開けて誰から見ても分かりやすく笑ったりはしないけど、でも、僕にはちゃんと分かるくらいに穏やかな笑顔を見せてくれるようになった。


しかも、アルバイトというていではあっても『SANA』で働くようにもなって、それまでのように『お小遣い』という形で渡してたのと違って、きちんと『給料』という形で収入を得るようになって、着々と自分の力で自分の人生を歩いて行ける準備が整いつつある。


以前の沙奈子の姿はもうどこにもない。どこにもないんだ。


左手首の近くにかすかに残る傷跡以外は。


それももう、分かってて見ないとちょっと皮膚の色が違ってるくらいにしか感じられないけどね。手術してくれた病院の技術のおかげもあるんだと思う。


『痕が残るかもしれません』


とは言われたのも、なるほど痕は残ってるものの、この程度だったらそんなに気にしなくていいよね。ファンデーションで簡単に消せる程度だそうだし。そういう意味でも医療技術の進歩はすごいんだなって感じるよ。玲那だって、あの事件の際に自分で自分の命を終わらせようとしたのを、声を失ったのと引き換えにではあっても助かったんだから。


玲那自身、


「あの時は『どうして死なせてくれなかったんだよ!?』とか思ったりもしたけどさ。今はこうして生きてられて本当に良かったと思う。昔のことを思い出したらたまらない気分になることはあっても、それよりもっといっぱい幸せなんだ。ありがとう、パパちゃん」


と言ってくれてる。


沙奈子もそうだけど、自分の過去を恨んで復讐を考えずにいられないのは、今が幸せじゃないからだろうなって感じる。今の自分が手に入れたものを引き換えにしても復讐したいと考えるというのは、『引き換えにしてもかまわない程度のもの』だってことなんじゃないのかな。沙奈子も玲那も、


『今の幸せを引き換えにしてでも復讐したい』


とまでは思わないでいてくれる、それほどの幸せを感じてくれてるってことだと思うんだ。


それを提供できてるのが、誇らしい。



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