二千二百三十九 SANA編 「今の私になれる」
八月十四日。日曜日。晴れ。
玲那が言ってた。
「私もさ、自分じゃ子供を育てたことがないからパパちゃんみたいな実感まではないけどさ、『親の育て方でどんな人間に育つか決まるわけじゃない』なんてのがもしホントだとしたら完全におかしいことがあるんだよ。香保理や絵里奈に出逢ったことで私は今の私になれるきっかけをもらったんだ。生まれた時から関わってた親でもない赤の他人の香保理と絵里奈がだよ?。赤の他人がそこまで影響を与えられるってのになんで親が影響を与えないって考えられんの?。
私は確かにあの両親とは違う生き方を選べたけど、私自身の人間性なんてはっきり言ってロクなもんじゃないよ。本質の部分じゃあいつらと同類だと思ってる。実際、昔の私は誰がどんなに苦しんでたところで屁とも思ってなかったからね。それが今の私になれたのは、香保理と絵里奈がきっかけを与えてくれて、それでパパちゃんが私のお父さんになってくれて私を育ててくれたおかげだよ。『親であるパパちゃんの育て方で私は今の私になった』っていう実感がムチャクチャあるんだよ。これは、私が好きな作家さんも言ってたことなんだ。
もし、『親の育て方でどんな人間に育つか決まるわけじゃない』のなら、『親の影響なんてない』って言うんだったら、香保理や絵里奈が影響なんて与えられるはずもなかったし、パパちゃんに育ててもらってても私は今の私になってないよ。世の中を恨んで人間全部を憎んで、シリアルキラーになってても全然不思議じゃないと感じてる。『どんな人間に育つかは生まれつき決まってる』なんてのも嘘だ。もしそれが本当なら、私は、『今の家族を守りたいからもう事件は起こさない』なんて誓えない。だって今でも、私を買った客を全員探し出して私に突っ込んだ汚いものを切り取ってそいつの口に詰め込んで縫い合わせて肥溜めに頭から沈めてやりたいと本気で思ってるもん。
だけどそんなことをしたらパパちゃんにも沙奈子ちゃんにも絵里奈にもとんでもない迷惑掛けるしみんな不幸になるのが分かってるからやらないってだけだよ。これだって、『パパちゃんと沙奈子ちゃんと絵里奈の影響』だよ。出逢ってまだ六年とか七年しか経ってないのにそれだけ影響受けてるってのに、親が影響を与えないなんてなんで考えられるのか分からない」
彼女のそれは、僕にとっても共感しかなかった。僕もあの両親の下に生まれて、でも今の僕になれたのは、沙奈子と絵里奈と玲那に出逢えたからだしね。




