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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千二百二十四 SANA編 「未知の世界に」

七月三十日。土曜日。晴れ。




今日も沙奈子たちは朝から『人生部』の活動をしてる。篠原優佳しのはらゆうかさんも、午前中は参加してる。昼からは習い事があるから。


そして昼食はうちで済ませて、それから習い事に行くんだ。しかも昼食の代金として千円を置いていく。食事代として渡されてるお金だそうだ。


すっかり人生部としての活動に馴染んで、みんなで一緒に夏休みの課題をした後は、一緒に昼食を作ったりもしてる。


「料理するのってこんなに面白いんだ!」


それまではただファミレスやファーストフード店で一人で食べていたのに、うちの厨房で沙奈子や千早ちはやちゃんに教わりながら料理をするのが楽しくなってきてるんだって。


人間の親はすぐに『生んでやった』『育ててやった』という言葉を使うけど、僕はその言葉も嫌いだ。こんな世界に勝手に生み出しておいて『生んでやった』なんてよくそんなことが言えるよね?。


しっかりと考えてみてほしい。人間が赤ん坊としてこの世界に生まれるというのは、


『言葉も通じない、自分の感覚が何一つ通じない、周りを自分よりはるかに大きくて力が強くて乱暴な怪物が取り囲んでる未知の世界に、何の前触れもなく予告もなくいきなり放り出される』


ということなんだよ?。しかも自分自身は、自分の身を守ることさえままならない非力な状態で。


そんな世界に断りなくある日突然送り込まれたら、大人だって途方に暮れると思うんだけどな。ううん、途方に暮れるどころか、正気を保つことさえままならないんじゃないのかな?。だって、巨大な怪物に自分の生殺与奪の権を握られた状態で抵抗もできないんだから。何を言っても理解してくれないし。そんな状態で何年も平然としていられるの?。


そう考えたら、せめて乱暴な態度はとらずに、穏やかに和やかな雰囲気を作って接してあげなきゃと思わないかな?。


僕は思う。そうして、自分が敵じゃないことを、『あなたを守りたい』と思ってることを、何とか伝えようと思うんだけどな。


そこまでしてやっと、信頼してもらえると思うんだけどな。信頼を勝ち取れると思うんだけどな。なのにそこで乱暴な態度で威圧するようなことをしていたら、身を守るために抵抗も試みるんじゃないの?。それが当たり前じゃないの?。


しかも、乱暴な態度で接するのが普通な世界だと感じたら、そういう態度になっていくんじゃないの?。かろうじて言葉が通じるようになってきても、乱暴な態度で接することが普通の状態じゃ、いくら言葉で優しそうなことを言ってても信用できないんじゃないの?。


だから僕は乱暴な接し方はしないんだよ。



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