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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
2222/2601

二千二百二十二 SANA編 「命に関わるから」

七月二十八日。木曜日。晴れ。午後から夕立。




玲緒奈れおなを見てて改めて実感した。人間の子供は、赤ん坊は、ただまっさらなだけだって。『生まれつきの悪人』も『生まれつきの狡い人』も存在しない。すべては育っていく中で誰かから学び取るからそうなるんだって分かったよ。


その原因を作った人が、自分が原因だということを認めたくないから話を逸らそうとしているだけで。


赤ん坊は、ただただ一方的に要求するばかりでそれを『狡い』と思う人はいるかもだけど、そうじゃない。赤ん坊が泣いて要求するのは、そうしないと命に関わるからだ。怖いこととか、不快なこととか、不安なこととかも、非力な赤ん坊にとってはそれが命に関わるほどのものである可能性があるからだよ。なのに楽をしたい大人が『狡さ』だと考えてそこに『悪意』を見出そうとしているだけだと分かった。


玲緒奈が会社に出勤しようとする僕を引き留めようとしたり、自分の言うことを聞いてくれないことに怒ったりしたのも、自分を一番守ってくれる僕がいなくなることは、彼女にとってはそれこそ『大変な危機』だったからだ。『どうせ半日だけのことだから』『待ってたら必ず帰ってくるから』と大人が考えられるのは、それを知ってるからだ。理解できてるからだ。だけど、この世界のことを何も知らないままいきなり放り出されて少しずつ学んでいる最中だった彼女には理解できない。だから怖い。自分は見捨てられてしまうんじゃないかと不安になる。憤る。


それだけのことだというのが、玲緒奈を見ていて学べたな。だったら、彼女がそれを理解できるまで丁寧に接するだけだ。たとえ玲緒奈を置いて仕事に行っても待っていれば必ず帰ってくるということを理解できるまで何度でも丁寧に説明する。


『大丈夫。お父さんは帰ってくるよ』


彼女が納得できるまでそう諭す。そして実際に帰ってくる。そうしているうちに実感できたのか、今ではもう、拗ねなくなった。僕がいない間でも、不機嫌にはならなくなった。待っていれば僕が帰ってくるということを彼女は学んだんだ。


そうやって彼女は少しずつ少しずつこの世界のことを学んでいく。この世界で生きていくということを学んでいく。それを僕たちは丁寧に丁寧に彼女に教えていくんだ。手本を示していくんだ。


『人間として人間と接するというのは、どういうことか? どうすればいいのか?』


『相手を人間として敬うというのは、どういうことをいうのか?』


というのを実際にやってみせて示すんだよ。それ以外にやりようがない。ロボットがデータを移し替えるみたいにはできないんだからね。



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