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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百二十二 玲那編 「ゆく年くる年」

スーパーで買い物を済ませおせちを受け取り、僕たちは家に戻った。いつものスーパーは元日からやってるから買い溜めする必要もないけど、念の為に冷凍食品とかはそこそこ買っておいた。


玲那のカートに買ったものを積んで僕がそれを引っ張って四人で歩いて帰ってきた。いつものこの感じがやっぱり嬉しいって思えた。飽きるとかそういうのはまだなかった。ようやく望んでいたものを手にできたんだから、まだまだそれに浸っていたいって気がした。


家に戻ってからも、大晦日だからって特に何か特別なことはしなかった。そんな必要も感じなかった。それでも一応、絵里奈は小さな鏡餅をテレビの脇に置いた。昔ならテレビの上に置けたんだろうけど、今は薄型になっちゃったからね。


「これ、かがみもち…?」


沙奈子がそれを見ながら聞いてきた。僕が「うん、そうだよ。普通よりだいぶ小さいけど」って応えると、「へえ~」って少し感心したみたいな表情で覗き込んでた。そうか、鏡餅を近くで見るのも初めてなのか。


僕の膝に座って午後の勉強をして、ゆったりとした時間が過ぎて行く。世の中では今この瞬間もいろんな事故や事件が起こってて、辛くて苦しい時間を過ごしてる人もいるんだろうなと考えると、余計にこの時間を大切にしたいと思えた。昨日のニュースで見た事故の人たちも、まさかこの時期にそんなことになるなんて思ってもみなかったんじゃないかな。洗剤を混ぜてしまったことで起こった事故ということは、大掃除とかしてたのかな。掃除に夢中になってうっかりしてしまったんだろうか。


こういうことはうちだって起こらないとは限らない。だから僕は、絵里奈や玲那とも話して、ここでは塩素系洗剤か中性洗剤だけを使うようにしようっていう話になった。うっかりで混ぜてしまったりしないようにするために。ものが無ければ混ぜようもないし。普段の生活でもそういうことは注意しないといけないなっていうのを、勉強を頑張ってる沙奈子の後姿を見ながら改めて考えさせられていた。


些細なミスで取り返しのつかないことになるっていうのはある。そういうのを肝に銘じないといけないよな。せっかく取り戻したものをそんな形で失うとか、絶対にあって欲しくないから。




それにしても、絵里奈も、こうやってずっと沙奈子の勉強とかを見てあげられるって、これもすごいなって思った。僕は割と早々に沙奈子に任せっきりにして最後にチェックする感じになってたのに、彼女のことが本当に好きなんだなって感じた。こうして一緒にいられることが嬉しいんだろうな。


今はまだどうしても一緒にいられない時間というのがあるから、その分、一緒にいる時を大事にしたいってことかもしれない。それに、絵里奈は、大切な人を突然失うっていう経験もしてきた。だから僕以上に、一緒にいられる時間が重要なんだろうなって思える。だって、沙奈子のことを見てる絵里奈の目は、いつだってどこか潤んでるみたいに見えるから。沙奈子の傍にいるだけで込み上げてくるものがあるのかなって感じだから。


もしかしたら絵里奈自身も、はっきりとは自覚してないのかもしれないけどさ。僕の目にはそう見えるっていうだけで。ただやっぱり、ここまでずっと見てられるっていうのは、相当の想いがないとできない気もする。


でもだからって、今も秋嶋あきしまさんたちのところに遊びに行ってる玲那の沙奈子への気持ちが絵里奈に比べて軽いものだったりするとは思わない。玲那は玲那で、秋嶋さんたちが沙奈子にとってどういう存在になるかっていうのを確かめようとしてくれてるんじゃないかな。だって、秋嶋さんたちのことを逐一僕に報告してくれたりしてるし。ただ単に友達と遊んだことを話したいだけなら女の子の友達と遊んだ時のことも話してもおかしくないのに、そっちはほとんど話題にも出てこないから。玲那自身がどこまで意識してるかは分からないけど、沙奈子のために必要な情報だと思ってくれてるんだろうなとは思う。


沙奈子に対する気持ちの表し方が違うだけで、絵里奈も玲那も同じように大切に思ってくれてるんだと思ってる。絵里奈と同じようにしないからってそれがダメだとか僕は考えたくない。玲那には玲那のやり方があるんだ。僕はそれを認めたい。例えるなら、絵里奈は直接型で、玲那は間接型って感じかな。密着するくらい近い距離で見守る絵里奈と、少し距離を取って見守る玲那って感じ?。


ああでも、そう考えると、絵里奈はすぐ傍で守ってくれる母親で、玲那は自由に動き回りつつ守ってくれる姉っていう風にも言えるのかも。面白いな。


何てことを考えてるうちに沙奈子の午後の勉強が終わって、そのすぐ後に、「ただいま~」って玲那が帰ってきた。随分早かったなと思った。すると玲那がニヤニヤ笑いながら、


「お父さん、お母さん、デート行ってきてもいいよ?」


だって。なるほど。そういうことか。気を効かしてくれたんだな。だけど…。


僕と絵里奈は顔を見合わせてた。絵里奈も僕も、顔が赤くなったりしなかった。だから僕は玲那に向き直って言った。


「今日はいいよ。せっかくだからこのまま、みんなでゆっくりと年の瀬を迎えたい」


僕の言葉に、絵里奈も頷いてくれてた。僕と同じ気持ちなんだと思った。すると玲那も、


「…そっか…、そうだよね。今日くらいはみんなでゆっくりしてもいいよね」


と柔らかく笑ってくれた。沙奈子も絵里奈に抱きついて、


「みんなで一緒にいられるね」


って言ってくれた。


絵里奈との時間ももちろん大事だけど、僕も絵里奈も、こうやってみんなで一緒にいる時間の方がやっぱり大事なんだ。だって僕たちはそのために家族になったんだから。


そしてその後は、沙奈子はやっぱり僕の膝で莉奈の服作りをして、絵里奈はその監督をして、玲那はポータブルテレビでアニメを見て、僕は物件探しをしてと、本当に四人でのんびりする時の過ごし方をして、今年最後の時間を過ごした。


それから夕食は、年越し蕎麦ってことで蕎麦にした。玉子を浮かべた月見蕎麦だった。夕食の後にはいつものように沙奈子と絵里奈がまずお風呂に入って、その間は玲那が僕の膝に座って甘えて、二人が上がったら玲那が入って、最後に僕が入った。


お風呂の後はまたのんびりした時間を過ごす。


特に何も起こらない。何もしない。ただただまったりとした時間を過ごす。その中で、僕は今年あったことを思い返していた。沙奈子が来て、学校に通い始めて、歯医者に行って、千早ちゃんとのことがあって、絵里奈と玲那に出会って、沙奈子がヤキモチ妬いて、でも仲良くなって、運動会があって、千早ちゃんや大希くんとホットケーキを作って、児童相談所での事件があって、僕と絵里奈が結婚して、玲那が僕の娘になって…。


本当に、本当にいろんなことがあった一年だったなぁ……。


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