二千百六十 SANA編 「今は堅実に力を」
五月二十七日。金曜日。晴れ。
沙奈子たちは今日までテストだった。と言っても、一年の一学期のだからそれこそ中学で習った範囲の再確認みたいなもので、気にするようなものじゃなかったらしい。
一真くんだけは、
「なんでそんなに平然としてられるんだ……?」
と、沙奈子たちを見て驚いてたみたいだけど。
一方、『SANA』の本社機能の移転はいよいよ三日後に迫った。それに伴って様々な事務用品とかの調達と、移転先のテナント事務所のパーテーションによる間仕切りなんかも、星谷さんが手配してくれてて、後はもう、こっちで使っているものを搬入するだけで済む状態だった。
ただ、事務所内のデコレーションや山下典膳さんのドールのミニギャラリーなんかについてはあくまで向こうに移ってからになるそうだけど。
沙奈子や絵里奈や玲那の意見をメインにして飾り付けていくそうだからね。
それがどういう形になるかは、実際になってみないと分からない。だけど少なくともここの一階の事務所に比べればずっと機能的になるはずだと思う。
確かにこれまでは、家で仕事をしているような気軽さが良かったのはありつつも、その分どうしても公私の切り替えがしっかりできていなかった面もなかったとは言えないかな。
でも同時に、イチコさんや田上さんがここでも事務作業ができるように、一部分だけは残しておくことにもなった。
つまり新しい事務所が本社で、こっちが出張所的な小規模なそれになるという感じかも。イチコさんと田上さんはまだ大学があるからね。もっとも、田上さんについては、新しい本社の方が大学が近いそうだから、
「学校がある時は本社の方に出勤しようかな」
みたいには言ってたりも。
世の中では、『新型コロナウイルス感染症』のこともあってしきりに『リモートワーク』について語られるようになったみたいで、『SANA』は元々そういう形でも仕事ができるような勤務形態ではあったのが、今後はそれをさらに押し進めようということみたいだ。
自宅でもここでも本社でも、どこでも同じように仕事ができるようにという。
たださすがに、国内向けの商品の管理と発送の手続きについては、当面は『本社から』という形になるかな。『配送センター』みたいなものを別に作るところまではまだまだだから。
だけどこれについても、星谷さんは、
「出店用のアカウントを取り、商品だけ納入しておけば、注文受付や配送についても一切を代行してくれるサービスはありますが、取引件数がさらに増えてくればそちらについても検討もしますが、正直申し上げて現状では先方の提示する条件を一方的に呑む形でなければ契約ができないでしょう。『SANA』はまだまだ知名度も低く企業としての規模も小さいですから。今は堅実に力をつけていく時期だと思います」
だって。




