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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千百二十八 SANA編 「縛られる必要はない」

四月二十五日。月曜日。晴れ。




『沙奈子が十八歳になった時点で正式に『SANA』の社員になって、僕の扶養から外れる』


僕たちはこれからそれに向けて努力していくことになる。ただ、状況によっては前後する可能性は十分にある。実は沙奈子自身は、


「私もちゃんと仕事したい……」


とも言ってくれてるんだ。とは言え、まだそんなに焦らなくてもいいということで、今はまず高校をちゃんと卒業することも優先してほしいのは、親として正直な気持ちかな。


だけど同時に、僕たちの考えを押し付けるつもりもないんだ。だから一応、十六歳になった時点でまず、『アルバイト』という形で採用することにもなってる。そうして給料も支払う。


絵里奈が復職して給料が満額支払われるようになったことで『山下家の世帯年収』は一千万円を超えたけど、さらにそこに上乗せされるということだね。


もっとも、『世帯年収』がそこまでいってるのは玲那が仕事をしてくれてるからであって、僕と絵里奈だけの給料じゃまったく届かないけど。なにより僕一人の収入じゃ、普通に『貧困世帯』ってことになるんじゃないかな。


だから僕は決して沙奈子に対して『努力』って言葉で威張れるような親じゃないのは今でも変わらないんだ。ただ彼女を一人の人間として接することができるだけで。


ああ、そう言えば、『三歳児神話は嘘』『サイレントベビーは根拠がない』って話になってきてるみたいだね。なるほどそうなのかもしれない。サイレントベビーはともかく、


『子供が三歳になるまでちゃんとしてれば後はどんなに手を抜いても大丈夫』


ってわけじゃないのは事実だと思うから、そういう意味で『三歳児神話は嘘』というのは納得できるかな。それに、三歳までで完全に決まってしまうなら、今の沙奈子も千早ちはやちゃんも結人ゆうとくんもいないはずだからね。でも同時に、根幹部分が出来上がるのは、三歳かどうかは分からないにしても幼いうちだろうなというのは実感としてある。玲緒奈れおなを見ていてもそう感じるよ。


その上で、そこから先もどう接するかは変わらず大事なんだって思ってる。『三歳児神話』に縛られる必要はないけど、だからっていい加減なことをしていいわけじゃないのは忘れちゃいけないと思うんだ。


それに、『魔の二歳児』というのも嘘なんだろうなっていうのも感じるかな。だって山仁やまひとさんはイチコさんの時も大希ひろきくんの時もそれを感じたことがなかったって言うし、玲緒奈もたぶん、大丈夫だって気がしてる。だって僕は、彼女が何かを伝えようとしてる時にはきちんと耳を傾けるようにしてるし、彼女がもし自分の言いたいことを上手く伝えられなくて癇癪を起しても、それ自体を受け止めるつもりだから。


沙奈子も玲緒奈も、一人の人間だからね。



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