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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千百 役童編 「ちょっぴり大人びた感じに」

三月二十八日。月曜日。晴れ。




今日は月曜日だけど、しばらく行けてなかったってこともあって水族館に行くことになった。星谷ひかりたにさんと大希ひろきくんも一緒に。


「お~っ!。ヒロ、久しぶり!」


玄関で、千早ちはやちゃんと沙奈子が二人を出迎える。


先に星谷さんから、


「今日、一緒に水族館に行きませんか?」


というお誘いがあったんだ。と言うのも、


「ごめん、心配掛けて。でももう大丈夫だから」


大希くんがとうとう乗り切れたそうで。それは、


『僕のお祖父さんが七人も人を死なせたんだったら、僕はその百倍の人を助けたい!』


と、彼が思えるようになったから。そう、役童強馬えきどうきょうまが命を奪ったその百倍の人を助けることが、彼の『目標』であり『目的』になったんだよ。彼にとっての『やりたいこと』が見付かったんだ。


「やったじゃん!。ヒロ!」


役童強馬のことはまだ話してないけど、とにかく大希くんがまた一緒に行動してくれることになったのを喜んでる千早ちゃんの声が玄関から届いてくる。


「よかった……本当に」


「はい、よかったですね」


うちに来る前に星谷さんからビデオ通話があって、


「ごめんなさい。心配をおかけしました」


大希くんが僕たちにも挨拶してくれて。


「ううん。そんなこといいんだ。大希くんが元気になってくれたんならそれでいいんだよ」


「頑張ったね、大希くん」


僕と絵里奈も、そう声を掛けさせてもらってた。


正直、彼のお祖父さんである役童強馬が七人もの人を死なせたからって大希くんがその責任を負う必要なんて何もないはずなんだけど、もしそれが孫である大希くんにも責任のあることだってなったら、それこそ祖先が起こした戦争の責任を子孫が負わなきゃいけないってことにもなりかねないけど、僕はそうじゃないと思うから、彼が責任を感じる必要はないと感じつつも、彼自身が『やりたいこと』を見付けられたというのなら、そこは認めたいって気がする。


取り敢えずまず『やりたいこと』を見付けておいて、それから具体的に何ができるのかを見付けていくというのも、一つのやり方なんじゃないかな。


そうして大希くんが挨拶する隣で、星谷さんが涙ぐんでたりもした。彼女にとってもつらい数週間だっただろうな。力になりたいのになれないもどかしさは、きっと身が引き裂かれるような気分だったんだって思える。


だけど大希くんには山仁やまひとさんがいて、とても愛されてて、信じてもらえてて、甘えることができて、改めて育つことができたんだろうな。


中学生で父親に思いっ切り構ってもらえてる子なんて、どれだけいるんだろう。


『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす』なんて話もあるけど、それ、ただの『空想上の作り話』なんだってね。




大希くんがどんな風にして乗り越えられたのか、その詳しい様子は僕には見えなかった。だけどそれはむしろ当然のことだと思う。だって大希くんは山仁さんのお子さんだから。山仁さんがしっかりと彼に向き合ってくれてたから、僕の出番なんてなかったんだ。


学校もしっかりと対応してくれてたから、僕の見えないところでちゃんと状況は動いてて、彼は自分の前に立ち塞がった問題に向かい合えたんだと思うんだ。


それに、『やりたいことが見付からない』とか『自分のお祖父さんが元死刑囚だった』なんてことは、結局、大希くん自身がそれをどう受け止めるかっていう話であって、彼自身と彼の家庭だけじゃ対処できなかった時にようやく僕たちの出番が巡ってくるっていうものだったんだろうな、


だから、大希くんと山仁さんとイチコさんとで解決できたんなら、それが一番だって気がするんだ。


そして、画面越しだったけど、大希くんの表情は、ちょっぴり大人びた感じになってた印象がある。


頑張ったね、大希くん。



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