二千八十一 役童編 「人を人とも思わない」
三月九日。水曜日。晴れ。
『親が子供に対して取ってる態度こそが、子供が他の人に対して取る態度の基になる』
僕はそう考えるとすごく納得できてしまう。些細なことで苛々して刺々しい態度を取る人なんかまさにそうなんじゃないのかな?。親は『体裁を整える』『上辺を取り繕う』ことができるなら、『いい人を演じる』ことはできるかもしれないけど、自分の子供に対しては、素の、
『相手が自分の思い通りにならなければすぐに感情的になって乱暴な口の利き方になったり雑な接し方になったりする』
という姿を見せてたとしたら、
『一見、いい人そうに見える親の子供が粗暴だったりする』
って事例も納得できてしまわないかな。
『子供が取ってる態度こそが、その親が子供に対して見せてる姿』
だとすれば、腑に落ちてしまうんだけどな。僕の両親がまさにそうだったみたいに。
僕の両親は、兄に対してはすごく甘かったけど、僕のことは本当に雑に扱ってた。兄に対して見せてる表情と僕に対して見せてる表情は、びっくりするくらい違ってた。そして兄は、そんな両親そっくりに育っていった。外面は良くてそれなりに人気者だったけど、気に入らないことがあると豹変したりするし、しかも自分が気に入らない相手のことは人間扱いしなかった。
両親ほどは外面を取り繕うのが上手くなかったのは、たぶんまだ子供だったからだと思う。加えて、両親がそんな兄を諫めなかったというのもあるんだろうな。さらには兄自身の元々の性格もあったのかもしれない。それらの要因が合わさって、兄はあんな人間になってしまった。
自分に都合のいい相手には優しかったりするけど、いい顔もするけど、そうじゃない相手にはとことん冷淡だった。『愛されキャラ』な面を強調して相手に取り入って信用させてお金を借りたり立て替えてもらったりするけど、相手がそれを返してもらおうとすると途端に、
「それが友達に言うことかよ!?。そんくらい最初から寄付するつもりで出すもんだろ!?」
とか言ってキレたそうだ。そして何人もの人から合計何百万も借りて、行方をくらましてしまった。すると両親のところにも借金の弁済を求めて押し掛ける人もいて、中には僕のところにまで来たのさえいる。もちろんそんなの払う義務もないから僕も突っぱねたけど、
「兄貴が借りたもんは弟が返すのが筋ってもんだろ!?」
みたいに無茶苦茶なことを言ってくるのも中にはいた。両親はそれこそ警察まで呼んで騒ぎになったこともあるらしい。
兄は、両親から、『人を人とも思わない考え方』を学び取り、しかも甘やかされたことでそれを増長させてしまったんだろうな。




