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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千七十五 役童編 「分かろうとする努力を」

三月三日。木曜日。晴れ。




今日はひな祭り。ということで、兵長と志緒里しおりで、玲那の人形と絵里奈の人形で、『雛人形』イメージして並べてみたりした。本当は雛人形も用意したいなと思わないわけじゃないんだけど、


「雛人形を買うお金があったら、ドールが欲しい……」


って沙奈子が言うから、今のところは敢えて買ってない。玲緒奈れおなには、雛人形をモチーフにした玩具(おもちゃ)を買ってあげたんだけど、


「どぅおわーっ!!」


とか言いながら自動車のおもちゃで撥ね飛ばしてしまった。それを見た絵里奈が、


「ひーっ!」


と悲鳴を上げたけど、それはまあ、ちょっと大袈裟なリアクションということで。確かに『不謹慎な遊び』だとしても、今はまだ目くじらを立てる必要はないと思ってる。だって玲緒奈はもうすでに、『人間』と『人形』の区別はついてるからね。人形相手には無茶苦茶するけど、人間相手には叩く時でも手加減をしてくれてる。彼女の中で何らかの基準ができてきてるみたいだ。


こうやって自分の子供が何を考えて何を感じて何をどう判断してるかを丁寧に判別しようと思ってる親がどれだけいるのかな。


子供は人間なんだ。親は人間を育ててるんだ。ペットを飼育してるわけでもライン作業で工業製品を作ってるわけでもない。『人間を育てる』ということを軽く考えてる人は、どういうつもりでそれをしてるのかな。


玲緒奈を見てると毎日のようにその疑問が膨れ上がってくる。自分の子供を『人間じゃない』とか『動物と同じ』とか現実逃避して、何がしたいんだろう。僕の娘を『人間じゃない』とか『動物と同じ』とか言う人なんて、信頼も尊敬もできないよ。この子は人間だ。大人ほどは経験を積んでないからその分だけ知らないことが多いだけの人間なんだ。この子は、毎日、一瞬一瞬、様々なことを見て聞いて感じて学んでいってる。この子の頭の中で猛烈な勢いで情報が再構成されて行ってるのを感じる。人間だからそれができる。


犬や猫が今のこの子と同じように言葉を理解してるって言うの?。『イカ』って言われたら『イカのカード』を手にして『イカ!』って言うの?。脳の働きそのものが犬や猫と違ってるのは、こうして見てれば分かると思うんだけどな。僕は脳科学の専門家でも何でもないけど、それでも『犬や猫とはまったく別のことを考えてる』ってことくらいは分かるよ。


分からないのならそれは、『分かろうとする努力をしてない』だけとしか思わない。だからそんな風に『努力』って言葉で自分が殴られたくないのなら、他の人も殴っちゃいけないと、『人間なら分かる』と思うんだけどな。



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