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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千六十二 役童編 「低め安定と言うか」

二月十八日。金曜日。晴れ。




入試を終えて今日も、大希ひろきくんは山仁やまひとさんと一緒に学校に向かった。まだ沙奈子たちと一緒に過ごすのは気が引けるらしくて。


けっこう長期化してきてはいるものの、かと言って悪化してる印象もない。低め安定と言うか、今の距離感でいいってことなんだろうな。現状では。


すぐに結果を求めたがる人たちにはじれったくても、そんなの、その人の感覚でしかない。しかもそうやって急いで結果を出そうとしてかえって拗れたり破綻したことってなかったの?。関係が壊れてしまったりってことはなかったの?。もしそういうことがあったら、それが『答』だと思うけどな。


だから僕たちは焦らない。結果を急がない。それに、何十年という人生の中のたった数ヶ月という時間を過大評価する必要も感じない。


入試の結果が出ればあとは卒業を待つだけだ。この時期は、それこそのんびりするだけでもいいんじゃないかな。いろいろ準備は必要でも、それだって焦る必要はないしね。


千早ちゃんについては、星谷ひかりたにさんと波多野さんの制服を譲り受ける形でほぼ本決まりだけど、教科書とかについてはさすがに改めて用意しないといけないし、


「これ、通学用カバンに」


昨日、波多野さんがそう言って、新しいリュックを結人くんに持っていってもらって千早ちゃんにプレゼントしてた。山仁さんが用意してくれる前に。


「ありがとう!、カナえ!」


千早ちゃんのお母さんとしては、中学に通ってた時のをそのまま使えばいいと考えてたみたいだけど、確かにそういう選択もあると思うし別にそれでいいなら問題もないと思うけど、波多野さんとしては、そうしたかったそうだ。


「ま、入学祝ってことでさ」


沙奈子は僕と絵里奈が、大希ひろきくんは山仁やまひとさんが、結人ゆうとくんは鷲崎わしざきさんと喜緑きみどりさんが、それぞれ、高校生活に向けてのあれこれを用意することになってる。そんな中で波多野さんも力になりたかったそうなんだ。制服を譲り渡すだけじゃなくて。


そんな風に思ってもらえるのは、千早ちゃん自身がそう思ってもらえる子でいられてるからなのは間違いない。例えばこれがあの『館雀かんざくさん』みたいな子だったら、さすがにそんな気持ちにはなれなかっただろうな。


僕たちだって決して『聖人君子』じゃない。どんな相手にも同じように接することができるわけじゃない。相手が千早ちゃんだったから、波多野さんもそれができた。これはまぎれもない事実だ。


だから、誰かを平気で傷付けられるような人でいないことは、結局、自分自身のためなんだよ。



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