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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
2029/2601

二千二十九 役童編 「挫けたって誰も責めたりしない」

一月十六日。日曜日。晴れ。




今日からまた緊急事態宣言が実施される。それも大変だけど、僕たちにとってはもっと大変なことが。


山仁やまひとさんが、大希くんに、『七人殺しの役童』のことを打ち明けたそうだ。


イチコさんも一緒にいる時に。


「……」


大希くんは言葉を失って、俯いて、涙を流してたって。いずれは知ることになる話だったけど、まさか受験も控えたこのタイミングになるなんて……


けれど、


『自分はすごく恵まれた環境に育ったのに、みんなみたいに頑張れてない』


という思い込みを中和するには、それくらいのインパクトは必要だったのかもしれない。


大希くんのことをずっとしっかりと見てきた山仁さんだからこその判断なんだと思う。それに、大希くんの親である山仁さんだからこそ、その責任を負えるというのもあるんだろうな。他の人にその責任を負わせるわけにはいかないっていう……。


これでもし、受験に失敗するようなことがあっても、それはそれだということで。山仁さんは、自分の決断の責任を誰かに押し付けるつもりはないんだ。


でも、さすがに事実を知った時にはショックを受けたらしい大希くんも、すぐにいつも通りの様子に戻ったって。『自分のお祖父さんが元死刑囚』という事実を知った時のイチコさんの反応も、ショックを受けながらも、


『自分が生まれるずっと前のことだから』


として、受け止めることができたそうだ。でも同時に、亡くなった被害者の人たちのことは、心の中では悼んでると。


「私が今さら何をしても、起こった事件はなかったことにならないしね。私は、誰かをわざと傷付けるような生き方はしない。それを貫くだけだよ」


そうも言ってた。それを大希くんにも言ったって。


「私とヒロ坊のお祖父さんが七人も人を殺したのは、変えようのない事実だよ。だけどそれは、私とヒロ坊が生まれるずっと前の話。お父さんは、そのことを分かってて私たちを迎えたんだ。でも私はお父さんのことを恨んではない。実際、それでなにか迷惑を被ったってことはこれまでなかったしね。でも、ヒロ坊もさ、これで自分がただ恵まれた境遇だってわけじゃないのが分かったよね?。てか、自分のお祖父さんが『人殺し』で『死刑囚』だよ?。ある意味じゃ、むしろぶっちぎりでとんでもない境遇だよね。だったら、上手くいってなくても別に不思議はないんじゃないかな?」


そう言った後で、亡くなった人たちのために、手を合わせたそうだ。


「ヒロ坊、私たちはさ、そんなとんでもない業を背負って生きてるんだ。だから挫けたって誰も責めたりしないよ。私も、お父さんも、千早たちもさ」



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