千九百七十四 玲緒奈編 「選ぶはずがないじゃないか」
十一月二十二日。月曜日。雨。
『育ててやった相手から悪く言われるとかおかしい!!』
僕はその考え方は、『甘え』だとしか思わない。僕と絵里奈が玲緒奈を迎えたことを考えれば一目瞭然だと思う。なにしろうちは、
『実のじゃない姉が二人いて、しかもどちらも虐待の被害者で、さらにそのうちの一人は傷害事件の加害者であり前科持ち』
なんていう家庭に来てもらったんだ。子供本人に承諾をもらってから生めるなら、子供がそんなところを選ぶはずがないじゃないか。だから僕と絵里奈の勝手で玲緒奈に来てもらったのに『育ててやった』なんて到底言えないし、僕も絵里奈も完璧な人間じゃないんだから上手くやれないこともあって当然なんだから、それを理由に悪い評価を受けたってなんの不思議があるの?。
しかも、その評価を下すのはたった一人だよ?。何人もの人から貶されるわけじゃない。たった一人、もし、沙奈子と玲那を合わせたとしても、たった三人だ。その三人から悪い評価を受けたくらいで心折れてて、どうして社会人として社会生活を送れるの?。
ましてや相手は自分より立場的に圧倒的に強い上司とか顧客じゃないんだよ?。子供なんだ。自己責任や自業自得って言葉が好きなんだったら分かるよね?。僕はそれをわきまえようとしてるだけだよ。
僕たちの家の事情だけでも大変なのに、その上、旦那さんじゃない男性の子供を、旦那さんにはそうと知らせずに育てさせたり、他所の家庭の奥さんに自分の子供を生ませて、子供が知らないうちに自分の兄弟姉妹ができてるなんて状況を作るような親が子供からそのことについて責められたとして、自己責任や自業自得以外のなんだって言うの?。
それどころか、沙奈子の実の親や、玲那の実の親や、結人くんの実の親みたいな虐待をしてた親が子供から責められて、何がおかしいって言うの?。
そこまでじゃなくても、『親だってただの人間だ』って言うなら、失敗だってするだろうし間違いだってしでかすと思う。それについて『評価』されて、何が問題なの?。
そういうこととも向き合えなくて何が『大人』だっていうんだろう。そして、そういうこととも向き合えないような親の子供が現実と向き合えない風に育って、何がおかしいって言うんだろう。それって、親そっくりに育ってるよね?。まさしく『子は親の鏡』だよね?。
僕は自分が実際に親になって、こうして玲緒奈と向き合ってると、その実感しかないんだ。こうして毎日毎日自分に言い聞かせてないと、僕はたぶん、すぐ自分に甘えてしまうと思う。自分を甘やかしてしまうと思う。
それが嫌なんだ。




