千九百六十七 玲緒奈編 「保育園に預けられる時は」
十一月十五日。月曜日。晴れ。
今日も玲緒奈は朝から元気だ。
「ねーっ!」
「ちゃーっ!」
仕事に行く用意をしている玲那と、学校に行く用意をしてる沙奈子を指差して、
「ぽあっぱ!。ぷあ!。ばぶるるるる!!」
と、何か一生懸命に話し掛けてる。すると、
「は~い、なんですかあ?」
「どうしたの?。玲緒奈」
玲那と沙奈子が、膝を着いて応えてくれる。そんな二人に、
「ぶあっぷ!!」
どこにも掴まらず立ったまま声を上げて、すとんとその場に腰を落とした。そんな姿がまた可愛くて、
「ん~っ♡」
「可愛いよ、玲緒奈♡」
玲那と沙奈子もメロメロだ。
そして僕も今日は、打ち合わせのために出勤する。早ければ昼過ぎには帰ってこれると思うけど、いつもと違ってスーツに着替えている僕を見て、
「ばるばる!。ぶぶぶ!!」
玲那や沙奈子や僕を順番に指差して何か言ってた。もしかしたら、玲那や沙奈子と同じように用意をしてるってことを理解してるのかもしれない。まだ言葉がしゃべれないから表現できないだけで、玲緒奈がいろんなことを理解してきてるのを実感する。しかも、ハイハイで壁まで行ってそれを支えに立ち上がって、そこから僕のところまで歩いてきて、
「ぶーっ!!」
って足をバシバシと叩いてきた。もしかするとこれも、僕が玲那や沙奈子と同じようにこの部屋からいなくなることを察して、抗議してきてるのかもね。
「パパはここにいろ!!」
って感じで。だけど、その要望は残念ながら聞き入れられない。玲緒奈の言うことは極力聞き入れてあげたいけど、こうやって『どうしても無理』っていうことは必ずでてくる。何でもかんでも言いなりになることはできない。こうやって、『聞き入れられること』『聞き入れられないこと』があるのを、この子も学んでいくんだ。それでいいと思う。なにもわざと理不尽なことをする必要はないはずなんだよ。
意図的にそんなことをしなくたって、自分の望みが百パーセントすべて聞き入れられるわけじゃないのは分かり切ってることだから。大事なのは、その、『どうしても自分の要望が聞き入れられない時にどう対処するか?』ってことじゃないの?。泣きたいなら泣いてもいいし、怒りたいなら怒ってもいい。その気持ちをちゃんと受け止めてもらえることが重要なんだと思う。
でも、面白いことに、イチコさんも大希くんも、保育園に預けられる時はまったく泣かなかったそうだ。それどころか、
『なにか面白そうだ!!』
って感じで自分から入っていって。
「あとで迎えに来るからね」
と声を掛けても、
「ん~っ!」
って、絵本とかおもちゃを手にして振り返りもせずに手を振ったって。




