千八百五十一 玲緒奈編 「ルールを守って運転するのは」
七月二十二日。木曜日。晴れ。
今日、玲緒奈が寝てから見たニュースで、
『横断禁止の場所を歩きスマホの歩行者が横断しようとしてるのを、スマホを見ながら運転してたバイクが避けようとして転倒。でも、歩行者はそれを無視して、しかも車がきてるのを止めさせてそのまま横断していった』
という事故を紹介してた。
和室の方でドレスを作ってた沙奈子も何とも言えない表情で見てたから、僕は、
「これは、スマホを見ながらバイクを運転してた人ももちろん悪いけど、スマホを見てたから歩行者が出てきたことに気付くのが遅れたことで転倒することになったんだろうけど、だからって、横断禁止のところを無理に渡ろうとしてた、しかも歩きスマホで渡ろうとしてた歩行者の方にも責任があるからね?。歩行者は確かに交通弱者だけど、だからって交通ルールを守らなくていいわけじゃないんだ。
もしこれで、歩行者の方が怪我とかしても、たぶん、過失割合が考慮されて、保険とかも満額下りないだろうね。だって、『横断禁止のところを渡った』っていう法律違反をしてたんだから、その分の責任は問われて当然なんだよ」
って、説明した。すると沙奈子も、
「うん。そうだよね」
と言ってくれた。その上で僕は、
「だけど、この場合だと、バイクの運転手もスマホを見ながら運転してたということで、たぶん無罪にはならない。歩行者側に違反があっても、運転手側にも同じように違反があったら、やっぱり、運転手側の罪は大きくなる。それだけ危険なものを運転してるんだっていう自覚が足りないと判断されるんだ」
とも付け加えた。実は星谷さんの言ってたことの受け売りではありつつ、大事なことだから。一方で、こういう時、
『こんなところを歩きスマホで渡ろうとした歩行者が悪いんだから轢かれて死んでも運転手は無罪になるべきだ!』
みたいなことを言う人が必ず出てくるけど、実際、運転手側に過失がないと判断されたら無罪になる事例もあるそうだけど、でもそれはあくまで『運転手側に過失や法律違反がなければ』っていうのが大前提だって聞いた。今回は特に『スマホを見ながら運転してた』っていう重大な違反行為が確認できるから、きっと無罪にはならない気がする。
ルールを守って運転するのは、そういう意味もあるんだって。万が一の事故の場合に、自分が違反行為をしてないことが、結局、自分の身を守るんだ。
『ドライブレコーダーを付けてたら、歩行者を轢き殺しても無罪になる』
みたいな都市伝説もまことしやかにささやかされてるらしいけど、それは結局、
『ドライブレコーダーの映像を確認しても運転手側の違反行為が見られず、歩行者側の過失が事故の主たる原因だったのが判明したから』
って場合に限られるんじゃないかな。




