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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百八十一 玲那編 「モテ期」

だけど以前、玲那はお父さんとは一緒にお風呂に入らなくなったとか言ってたよな。ということは、父親の前で裸になることに抵抗感を持つようになったということだよな。なのにどうして、『お父さん』であるはずの僕の前で平気で裸でいられるんだろう?。


そんなことを思ってると、ふと、別のことが頭に浮かんだ。そうだ。玲那は幼いんだ。下手したら精神年齢としては沙奈子より幼いくらいかもしれなかった。ということは、僕の前では、お風呂に一緒に入らなくなる以前くらいまで戻ってしまったというのもあるのかな?。


正直、その辺はよく分からない。いずれ何かの機会があった時にでも聞ければいいかな。それに、玲那自身、そこまで考えてるかどうか分からないし。ただ単にリラックスしたいだけかもしれないし。それがどっちであっても、そうするのが玲那にとって落ち着けることなら、認めてあげたいと思った。別に僕にとっても害があることでもないからね。たぶん、すぐに慣れてしまうと思う。って言うか、さっき焦ったのだって、こういう時は焦ったふりをするべきかなっていう計算が働いた感じが自分でもしてた。そうすることで、わざと見ようとしたわけじゃないっていうポーズをしようとしたって自分でも感じる。


はあ、我ながらズルいなあ。だけどそれも、玲那が僕に見られることを恥ずかしいとか嫌だとか思ってないとしたら、する必要もないポーズだよな。ただ、そういうのが当たり前っていう家庭環境というのも、沙奈子にとってはどうなんだろうと思わなくもない。まあ、沙奈子がそれを不快だと感じてなければ平気なのかもしれないけど、とは言えお姉ちゃんが家で全裸ってのはね。


もしそれが沙奈子にもうつってしまったらどうしよう?。沙奈子自身は玲那みたいな恰好は「しない」と今は言ってても、今後はどうか分からない。そういうのが当たり前になってしまったら、そんな沙奈子を受け入れてくれるような男性はいるんだろうか?。


なんて考えると、今度は、ああ、そういう男性が現れないなら別に結婚なんかしなくてもいいよな。とも思ってしまった。結婚は義務じゃないし、今はもう結婚しないっていう人も増えてるんだから、気にする必要もないのか。それに、僕みたいな人間だってこうして他人と一緒に暮らそうなんて思ったりするんだし、縁っていうものがあればそんなに高いハードルでもない気もする。何しろ沙奈子は、すごくいい子だ。


そうだよ。夏休みの読書感想文で、『わたしは、いじわるする人にはなりたくないと思いました』と締めくくるような子なんだ。自分が辛い目に遭ってても、他人を自分と同じ目に遭わせたいとは思わない子なんだ。こんないい子を、家で裸でいる方がリラックスできるからそうしてるっていう程度の些細なことで切り捨てるような男には、任せられない。


自分の思ってる通りにならないからってキレたり見限ったりするような人間に、この子は渡せない。そういうだらしないって思える部分もひっくるめて受け止めてくれる人でないと、この子には相応しくない。


僕は、単純にそう思った。


玲那だってそうだ。彼女はもしかしたら沙奈子以上に辛くて苦しい経験をしてきてるかも知れない。小学生の頃に相当な目に遭ってきてるらしいのに、他人を傷付けたり苦しめたりしようとしない、ものすごくいい子なんだよ。それを、自分の家で全裸になってるくらいのことで駄目だって切り捨てるなんてどうかしてる。家で裸だからって誰が傷付くって言うんだ。まあ、それを他人に見せたり他人にも同じようにするのを強要したりしたらマズいけどさ。でもそうじゃないからね。


絵里奈もそうかな。玲那ほどじゃないけど、どうも僕の前では裸でいることも割と平気らしい。今のところ一応は節度を考えてるっぽいとは言っても、もう少し慣れてくるとだらしない一面が浮き彫りになりそうな予感がある。だけど僕は、たぶん気にしないと思う。最初は驚いても、すぐに慣れると思う。だって絵里奈も、誰かを傷付けたり苦しめたりするような女性じゃないから。自分が辛かったり苦しかったりすることで感情的になることはあっても、基本的には関係のない人のことをけなしたりくさしたりっていうことをしないから。


だからって、僕と同じで聖人君子ってわけじゃないことも分かってる。怒る時は怒るし、ヤキモチ妬く時はヤキモチも妬く、普通の女性だ。ただちょっとそのポイントが世間一般とは違うかも知れないけど、少なくとも感情はちゃんと持ってる。しかも人形にやけに入れ込んでて、その辺りも普通とは違ってるかも知れない。そういう部分があっても、僕は絵里奈のことが好きだ。絵里奈とだったら結婚してもやっていける気がする。


駄目な部分とか、だらしない部分とか、そういうのもあって人間なんじゃないかな。他人と一緒に生きるっていうのは、そういう部分とどううまく付き合っていくかっていうことじゃないかな。そういうのが嫌、何もかも自分の思い通りにならないと嫌っていう人は、他人と一緒に生きるのは向いてない気がする。


その点では僕は、最初から自分の思い通りになることを諦めてる部分があったから、玲那や絵里奈みたいに上手くハマる部分があれば他はそんなに気にならないっていうのがある。もしかしたら、それが僕の長所だったのかもしれない。と言うか、それが長所になる相手が、沙奈子であり玲那であり絵里奈だったということかな。だって今でも、二人以外の女性からは声も掛けられたりしないし。


もし、今がモテ期とかいうものだったら、他の女性から声を掛けられたっておかしくないだろうけど、そういう気配がまるでない。だから世間的に見たら僕は相変わらず女性に相手にされないタイプってことになると思う。たまたま、僕と上手くハマる人と出会ったっていうだけなんだろうな。


でも、それでいいや。好きでもない相手に構われるのは、今でも面倒臭く感じてる。合わない相手に気を遣うのはやっぱり嫌だ。沙奈子や玲那や絵里奈だから、気を遣いたい、幸せになって欲しい、苦しめたくない、嫌な思いをさせたくないって思えるんだし。


そんなことをお風呂に入りながら延々と考えてたら、軽くのぼせてしまった。お風呂から出て、沙奈子たちを見たらまた莉奈の服作りに夢中になってる感じで僕の方には意識も向けてなかった。だから少し裸のままでのぼせた体を冷ましてた。それが心地好くて、玲那の気持ちが分かる気がしてしまった。


少ししてのぼせた感じが収まってきたところでようやく部屋着を着た。だけど、以前のようにパンツ一丁でいられたらもっとリラックスできそうだとも思ってしまった。


そうか、こういうところも僕たちは似てるんだろうなと、改めて思ってしまったのだった。


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