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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百六十七 玲那編 「手作り餃子」

久しぶりに昼前にスーパーに買い物に来たこともあって、久しぶりに中の喫茶店でお昼を食べることにした。


「沙奈子、何食べる?」


僕がそう聞くとすかさず沙奈子が答えた。


「オムライス食べたい」


そうか、沙奈子、ここのオムライス好きだもんな。その沙奈子の様子を見て、玲那と絵里奈も声を揃えた。


「じゃあ、私たちもオムライスで」


僕はあえてサンドイッチにした。からしマヨネーズの入ったピリッとしたのを食べたい気分だった。それにここはサンドイッチは割と早く出てくるからね。先に食べてゆっくり沙奈子たちのことを見守らせてもらおうかなって思ったからだ。


案の定、サンドイッチが先に来て、僕は「お先に」って食べさせてもらった。そしたら玲那が、


「あ~、私もサンドイッチ頼めばよかったかな~」


とか言うから、「じゃあ、一つ食べる?」って聞いた。その時の玲那の返事が「食べる!」って感じで本当に子供みたいだった。


それから少ししてオムライスも来た。沙奈子が嬉しそうに「いただきます」すると、玲那と絵里奈も「いただきます」と手を合わせた。


「あ、美味しい!」


玲那が声を上げる。そりゃそうさ。沙奈子が好きなオムライスだから。絵里奈も「美味しいね」と沙奈子に話しかけながら食べた。みんな綺麗に平らげて、満足そうな顔をした。


スーパーでの買い物と昼食を終えて部屋へ戻ると、絵里奈がさっそくベランダに出て作業を始めた。まず僕が一枚だけ吊り下げてた申し訳程度の目隠しシートを外して空いてる物干し竿を一番外側に引っ掛けて、結索バンドでフックに固定してしまった。それからその物干し竿にサンシェードを二重にして吊るすとそれだけでもう殆ど見えなくなってしまった。それだけじゃなくて、物干し竿を掛ける為のフックを利用して両脇にもサンシェードを吊るし、ベランダを完全に覆ってしまったのだった。これなら、サンシェードを破らないと外から入ることも出来ない。なるほどと思った。


何よりこれで、窓を開けておくことだって出来る。もっとも、次に窓を開けたくなる時期までこの部屋にいるかどうかは分からないけどね。それでも外から見えないようにできただけでも十分だと思った。


「私の部屋のベランダもこうしてるんです。これなら洗濯物も分からないし、風で洗濯物が飛んでいくこともないし。鳩とかが入ってこないようにする為でもあるんですけど。あと、下に空き缶とか並べて置いたら入ろうとした時に音がするからもっといいと思います」


そう言って絵里奈は次に、窓を乾いた雑巾で拭き始めた。そして綺麗になったところに霧吹きで少し濡らして、目隠し用のシートを貼り付けた。何度もやってるのか、慣れた手つきだった。


「このシート、ガラス破り対策用にもなってるんですよ。これでもう外からは殆ど見えません」


その絵里奈の言葉に、僕たちは思わず「お~!」っと声を上げて拍手をしてしまった。


結局、最後まで絵里奈一人で全部やってしまった。正直、女性に全部やってもらったのは男として情けない気もしたけど、これで僕も分かったから、もし今度同じことするときは自分で出来そうだと思った。


少し部屋が薄暗くなったのはあるけど、今まではカーテンを閉めてたのを開けられるようになった分、そんなに変わらない気もする。洗濯物もまたベランダに干せるようになったし、これはいい。


一通り作業を終えられて、今度は沙奈子の昼の勉強をした。僕の膝に座って、玲那と絵里奈に囲まれて、沙奈子はどんどんドリルを進めていった。ひっ算にも慣れてきたみたいだ。


勉強が終わったら、今日はもう買い物は済ませてるから、また裁縫セットを出してきた。昨日の続きをするみたいだった。また絵里奈は真剣な顔になってた。僕にはよく分からないから、口出しはしないことにした。


それから日が暮れて部屋の照明を点けた頃、


「できた!」


って沙奈子が声を上げた。絵里奈と玲那も声を上げてた。


「できたね沙奈子ちゃん!」


「すごいよ、上手に出来た!」


二人の言葉に沙奈子も照れたみたいに、だけどどこか自慢げに笑ってた。そして完成した白いワンピースを、ドレスを脱がせた莉奈に着せていった。


「おお~っ!」


これには、僕も一緒に声が出た。そこには、白い涼し気なワンピースを着た莉奈の姿があった。これが夏だったらもっと気持ちいいかも知れないけど、それでもよくできてるって、僕でも分かった。莉奈用の服の第一号だな。自分が作った服を着た莉奈を見て、沙奈子も「むふーっ!」って感じで興奮してるみたいに見えた。それも当然か。


彼女は本当にすごいと思う。僕には全然できそうもないことができる。それだけでも十分にすごいよ。簡単なものならもう食事も作れて、裁縫もできて、掃除も洗濯もできて。普段の生活にはもう何も困らないんじゃないかな。


勉強はまだ遅れてるかも知れなくても、それだっていずれは追いつける。あとはもう、経験を積んでいくだけで立派に自分の力で生きていけそうな気さえする。本当にすごいな沙奈子は。


一段落ついて、夕食は餃子をすることになった。いつもの焼くだけのやつじゃなくて、具から作る手作り餃子だ。絵里奈が材料全部、買ってきてくれたのだった。


「ホントに、毎日、沙奈子ちゃんに料理を作ってあげたい」


今日の午前中、洗濯をしてる時に来週分のお惣菜を受け取った時に呟いたことを、絵里奈はもう一度口にした。その為には、早く一緒に住める家を見付けないといけないな。


絵里奈と沙奈子が作った具を、四人で皮に包む。みんな無口になってせっせせっせと作ってた。でも何かいい。何かいいよな。こういうの。


そして包み終わった餃子を、いよいよ焼く。どんどん焼いて、どんどん皿に盛っていった。あんまり大きくない皿二枚に、山盛りの餃子ができ上ってた。すごく美味しそうだ。


「いただきます!」


今度はみんなで声を合わせてそう言った。絵里奈と沙奈子の手作り餃子を、炊き立てのご飯で食べた。美味しかった。本当に美味しかった。だけど美味しいだけじゃなくて、とにかく幸せって感じがした。これが家庭ってもんなんだなって気がした。


普段はあんまり食べる方じゃない沙奈子が、餃子をどんどん食べてた。お昼に食べたオムライスが可愛く思えるくらい食べてた。すごいな。幸せな美味しい食事って、こんなにすごいんだ。


お皿二つに山盛りあった餃子が、きれいさっぱり無くなってた。沙奈子も、玲那も、絵里奈も、『もう食べられない』って顔をしてた。僕もそうだったと思う。


絵里奈がこの部屋で初めて作ってくれたカルボナーラの時以上に食べた気がする。いや、間違いなく食べてる。だから僕も沙奈子も、こんな食事は生まれて初めてかもしれない。少なくとも僕は、ここまでしっかり食べたことは、こんなに楽しい食事を、もう無理って言うほど食べた覚えがない。


それを辛いと思ったことはないけど、知らなかったことはもったいなかったなって気はしたのだった。


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