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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百十八 沙奈子編 「賢明」

『本当のお姉ちゃんのように慕うようになったみたいですね』


そこまで聞いた時、僕はそれをどこかで聞いたような話だと思った。そしてすぐに、沙奈子と、伊藤さんや山田さんとの話によく似てると思ったのだった。しかもこの前の日曜日って、まさに同じ日じゃないか。


僕たちに奇跡のような出来事が起こってたまさにその時に、別の似たようなことが起こってたんだって僕は感じた。


「とにかく、何か大きな事件が起こったということじゃないようですよ。千早ちゃんのお姉さんが意地悪なことをしてたのを彼女が助けてくれたというのはその通りらしいですが、あくまで言葉の上らしいです。ガードマンが来たのも、たまたま警備会社の訓練と重なっただけらしいですし」


山仁やまひとさんにそこまで説明してもらったことで、僕は、はっきりした詳細までは分からなかったもののどうやら僕が心配しなきゃいけないほどのことじゃなかったらしいというのだけは納得できた気がした。


だけど同時に、言葉っていうのは本当に難しいものだっていうのを改めて実感したのだった。沙奈子から聞いただけの言葉から受けた印象と、実際に起こってたこととは全然違ってたんだから。断片的な情報だけで早合点するととんでもないことになるっていうのを思い知らされた気もする。この辺りも、今後は気を付けないといけないと思った。曖昧な情報は本当に危険だな。


それにしても、石生蔵さんの方もなかなかすごいことになってるんだなとは思った。ガードマンが警備についてくれてる女子高生?。どこのVIPの娘さんなんだろう。そんな子と友達だったり家庭教師をしてもらったりって、何だか別の世界の出来事のようにも思えた。どこでどうすればそんな人と知り合いになれるのか、僕には想像もつかなかった。そんな子が同級生にいる学校って、山仁さんの娘さん、何だかすごいところに通ってるのかなって思った。


でもその辺は僕が詮索しても意味がないか。娘さんをどんなすごいところに通わせてても山仁さんは山仁さんだもんな。


あ、だけど考えてみたらそんなすごい女の子に家庭教師をしてもらってる大希ひろきくんと沙奈子は友達なんだ。もしかしたら今後、どこかで顔を合わせることもあるかもしれないな。それを思うと、僕はまた不思議な気分になってしまうのだった。


「お忙しいところすいませんでした」


そう言って電話を切った僕は、とにかく頭を切り替えて仕事に集中しないといけないと思った。昨日に比べると遅れてたし。それから後は一気に終わらせた。それもあって9時過ぎには家に帰れた。


それから風呂に入ったりだったから今日は沙奈子に裁縫セットを使わせてあげることが出来なかった。せっかく彼女からは「おつかれさまのキス」までしてもらったっていうのに、それが少し申し訳なかった。でも当の沙奈子はそんなに気にしてる風でも無くて、今日、接着剤で作ったらしい服の仕上げに忙しそうにしてた。やっぱりロングのワンピースみたいだった。ただ、使われてる布はそれぞれ違う気がする。僕と一緒にスーパーで買った布らしいのもあったし、たぶん山田さんと一緒に買った布らしいものが使われたのもあった。もうすっかり、沙奈子以上の服持ちじゃないのかな。この人形。


髪が乾いたころにはもう10時前で、この日はそのまま寝ることになった。今日も横になりながら沙奈子に聞いてみた。


「今日は学校はどうだった」


という僕の問い掛けには「楽しかった」っていつもの答えだった。そこで僕は当然のごとく質問を重ねた。


「今日は石生蔵さんはどうだった」


という質問には、「普通」って返って来ただけだった。そうか、普通か。沙奈子が普通という時は、石生蔵さんが普段通りにできてるっていう意味だっていうのはもう分ってる。だから特に気になるようなことは起こらなかったということなんだろう。石生蔵さんも落ち着いてたんだと思う。


石生蔵さんに起こったことの詳しい話を知りたいとも思いつつ、関係のない僕がそういうのを根掘り葉掘り聞こうとするのもちょっと違う気がするのも確かだと思ったから、沙奈子が石生蔵さんから聞いたこと以上のことについてはもういいと考えるようにした。何か縁があればまた知ることもあるかもしれないし。


そうだ。石生蔵さんにホットケーキを作りに来てもらったらどうかな。急がなくてもいいから、いつか、ね。


話が一段落したところで、僕は沙奈子におやすみなさいのキスをした。彼女もお返しのキスをしてくれた。そのまま彼女が寝息を立てるのを感じながら、僕はこれまでのことを整理した。


石生蔵さんと不審者の件は、これで解決したと考えていいのかな。その不審者と思われてた女の子は、山仁さんの娘さんの同級生で、大希くんの家庭教師もしてて、ガードマンが守ってくれてて、今は石生蔵さんに本当のお姉さん以上に慕われてるって感じでいいのかな。


改めて整理してもなんだかよく分からない話だった。でも、それは沙奈子に起こったことも同じかな。


たまたま僕に声を掛けてきた会社の人が彼女のことをすごく大切に思ってくれて、だけど彼女には最初その想いは届かなくて、日記ではいなかったことにされるくらいに嫌われてて、なのにその二ヵ月後くらいに劇的に関係が良くなってまるで姉妹みたいになってって、これも他人からしたら何のことかよく分からない話のような気がする。


他人のエピソードなんて、断片的な情報だけだと本質は伝わらないっていうのを改めて感じた。僕も断片的な情報に振り回されないように気を付けなくちゃいけないな。沙奈子がそんなことに振り回される人にならないように手本にならなくちゃ。今回のことはそれに気付くためのいい経験になったかも知れない。


誰が言ってたのかもよく分からない情報を、それもごく一部分だけを切り取ったみたいないい加減な情報を鵜呑みにして他人を攻撃する人は本当に多いって感じる。何が目的でそんなことしてるのか僕は知らないけど、そういうのは僕は嫌だ。沙奈子がそんなことをするようになるのも嫌だ。ちゃんと自分で見て聞いて確かめてそれから冷静に判断できる人になってほしいと思う。彼女は普通の人よりいろんなものを抱えてる筈だから、余計にそういうのは気を付けないといけないって感じがしてる。でないと彼女の闇は、きっと人を傷付ける。ような気がする。


そんなことにならないようにするのも、僕にとって『沙奈子を守る』ということだと思う。他人に恨まれて攻撃されるような人にならないようにすることが、結局は彼女を守ることになるはずだ。


僕の場合は自分の存在感を消すことで他人との諍いを避けようとしてきたけど、それは自分の周りに誰もいないというのが前提の方法だった。沙奈子の周りには彼女の味方になってくれる人がちゃんといる。だったら、その人たちを大切にできる人になることが、彼女の力になるんじゃないかと僕は思ったのだった。


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