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第59話 あなたに会いたい①


 三学期が始まった。

 思い返すと昨年の後半は様々なことがあった。

 日向坂さんと仲良くなったことは、その中でも最も大きなイベントというか、出来事だったと思う。


 確実に俺の三学期の日常に変化をもたらした要因の一つだ。

 だとして、次に変化をもたらしたイベントはなんだったのかと考えたとき、これもまた迷いなく、間違いなく言い切ることができる。


 それはクラスのクリスマス会に参加したということだ。


 どうしてそう思うのかというと、それは三学期初日に登校した俺がそう感じたからだ。


『あ、志摩。おはよー』


 教室に入った俺に気づいて挨拶をしてくれたのはタレ目さん――改め雨野さんだった。


『おは、ようございます』


『なんで敬語。変なの』


『いや、急に挨拶されて動揺しただけで』


『クラスメイトなんだし、挨拶くらい普通っしょ。ねえ、麻美?』


『そだね』


 ギャル子さん――改め、野中さんが俺の方をちらと見て短く言った。

 とてもクリスマス会でウェーイな進行を務めていた人とは思えないテンションに驚いたものだ。


『麻美は朝弱いんだよね』


『俺に対しての興味が皆無なのかと思った』


『そういうんじゃないよ』


 そう言ったのは野中さんだ。

 そういうんじゃないようで安心した。


『珍しいメンツだね。どういう風の吹き回し?』


 そろそろ自分の席に向かおうとしたところで声をかけてきたのはイケメンな男子生徒。


 たしかクリスマス会で日向坂さんからのプレゼントを受け取っていたやつだ。

 マッシュヘアのイケメン。私服がオシャレで同い年とは思えなかったけど、制服だと年相応で安心した。


『せっかくクリスマスに仲良くなったし、親睦を深めようかと思ってね』


『なるほど。志摩、だっけ。僕は樋渡優作。せっかくだし、僕とも仲良くしてくれよ』


『はあ、こちらこそよろしく』


 ナチュラルに握手を求められたので、俺は動揺した応えてしまった。

 財津がイケメンクソ野郎とするならば、この樋渡優作という男はイケメン爽やか野郎だ。


 そのとき、俺はふと思った。


 いつもならばバカみたいに騒いでいる財津翔真の姿が見えない、と。

 クリスマスのあの日、クラスメイト全員の前で公開告白をして盛大に振られてしまった彼に、教室での居場所はもうないのだろうか。


『財津は?』


『さあ。さっき見かけたけど、今はいないね』


『そうか』


 それから意識して財津翔真を視線で追っていると、休憩時間になるたびに教室から出ていっていることが分かった。


 やはり、教室でどう振る舞えばいいのか分からなくなっているのか。

 クラスメイトは別に財津に対してどうこう思っている様子はなかった。むしろ、その露骨な態度に対して笑っているところは見受けられた。


 そんな感じで、俺のクラスにも少しだけ変化があったのだ。


 俺に訪れた変化といえば、教室での人との会話する機会が少し増えた。


「おい、志摩」


 三学期が始まって、はやくも二週間近くが経過して、そういう空気感にも慣れ始めた頃。


 俺は昼休みにぼーっと窓から外を眺めていた。別になにか意味があるわけではなくて、ただなにも考えていなかっただけ。


 そんな俺にケンカを売るように話しかけてきたのは秋名だった。


「なんだよ?」


「今日の放課後ひま?」


「……俺の放課後に予定があると思ってるのか?」


 カレンダーが白紙過ぎてスケジュール帳持つ必要を感じない俺だぞ。


「これまでなら決めつけてたけど、最近はそうとも限らないじゃん」


「……なにが言いたい?」


 にやにやと分かりやすく笑いながら言ってくる秋名に、俺は居心地の悪さを覚える。


「ついこの前までぼっち極めてたのに、最近は随分リア充決め込んでるなと」


「そういうんじゃないって」


 三学期に入り、たまにだけど日向坂さんと帰るようになった。

 もちろん日向坂さんには日向坂さんの人付き合いというものがあるので毎日ではないけど、週に二回か多くて三回。


 まあ、最寄り駅も近いしな。


「だからちゃんと確認してんの」


「そういうことね。今日は暇だよ」


「じゃあちょっと付き合ってよ」


「え゛」


 秋名と話すようになったのは、ちょうど日向坂さんと話すようになった頃だ。

 遠慮のない物言いと気さくな態度のおかげで、秋名に対しては気を遣うことなく接することができている。


 それはきっと彼女の方も同じで。


 けど、秋名からこうしてなにかのお誘いがあったことはなかったはず。


 ということで、否応なく警戒してしまう。


「そんなリアクションすることないだろー? 別に悪いことしないって」


「……要件は?」


「内緒という感じでは進めれない?」


「そうだな」


「要件伝えると志摩が来ないかもしれないもしても?」


「俺が行かなくなるような要件なのか?」


 俺が訊くと、秋名はどうにも歯切れの悪いリアクションを見せる。

 なんだって遠慮なくぶっ込んでくる彼女にしては実に珍しい。


「あのね、志摩に会いたいって言ってる人がいて」


「俺に会いたい? ファンなんか作った覚えないぞ?」


「ファン……とか、そういうんじゃないと思うけど。なんか、お礼がしたいんだってさ」


「お礼?」


 ますます分からん。


 俺が眉をしかめているのを見た秋名は驚いた顔をする。


「心当たりないの?」


「ないよ。お礼をされるようなことはした覚えがない。もうちょっと情報ないのか?」


「うん。なんでか言ってくれなくて」


「……ていうか、なんで秋名が仲介してんの?」


「同じ部活の友達なの。だから、できれば会ってほしい。悪い子じゃないことだけは保証するから!」


 おねがい、と手を合わせられる。

 そこまでされると断ることはできないので、俺はもやもやを心の中に残しながらも了承した。


「サンキュー。じゃあ、放課後よろしくね」


「おー」


 一体なんなんだろうか。

 本当に全くこれっぽっちも心当たりがないだけに怖いな。お礼をすると言いながら実は殴られたりしないだろうか。

 知らない間に恨みを買っていたとか。


 ……それもないか。


 恨みを買うほど人と関わってないしな。

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