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第52話 今年の終わりに君を思う【解決編】


 気づけば一年ももうすぐ終わる。

 ちらと時計を見ると、時刻を示す針は十一時を回っていた。


 わたし、日向坂陽菜乃はスマホをちらと見て、視線をテレビの方に戻す。

 せっかくの大晦日なのに、一人で部屋にいるのも寂しいと思い、リビングで親と紅白歌番組を見ている。


 とはいえ、わたしはアーティストの有名な曲をとりあえず知っておく程度なので、出てくるアーティストはそこそこしか分からない。


 ななはさっきまで元気だったけれど、さすがに眠たくなってきたのかうとうとと重たい瞼を開けていたけどついにごろりと寝転がり眠ってしまっていた。


 正月といえば、イベントの一つとして有名なのは初詣だ。

 元旦に行く人がいれば三が日の中で適当にという人もいる。人混みが好きじゃない人は三が日を過ぎてからゆっくりと神社を尋ねるだろうし、中には年が明けたあと夜中に向かう人もいるらしい。


 大晦日だけは電車が二十四時間動いているから、そういうこともできるんだよね。

 三百六十五日の中で唯一、そんなことができる日だからこそ夜中に動き回りたいという人もいるのかな。


 わたしは三が日の中で家族と向かうことが多い。友達に誘われれば、友達とも行くけれど。


 それはもう初詣ではないのでは、というありきたりなツッコミはさておくとして、このまま行くと今年は例年通り家族と行くだけとなる。


 梓から誘われはしたけれど、彼女は他の友達とも行くらしいからわたしは遠慮したのだ。


「さっきからずっとスマホを見てるわね?」


「……そうかな」


 紅白を眺めていた母が言ってくる。

 自分では気にしていなかったけど、母が気になるくらいには見ていたのだろうか。


「思い返すと、ここ一週間くらいずっとそうね。クリスマスに彼氏でもできたかと思っていたけれど」


 からかうように母が言ってくるので、わたしは「そんなんじゃないよ」と言う。


「どうせあの子でしょ? ななのお気に入りのお兄ちゃん?」


「……なんでそう思うの?」


 バレるとこうしてからかわれるだろうと思って、家族には志摩くんのことは話さないようにしていたはずなのに。


「なながよく話すから」


 さすがにななは責めれない。


「いいじゃない。高校生なんだから、恋愛の一つや二つ。制服デートくらいは経験しておいた方がいいわよ」


「制服デート……」


 憧れる。

 放課後にどこか寄り道をするというのはもちろんだけど、休日にわざわざ制服で遊園地なんかにデートに行くのは一度くらい経験してみたいと思う。


「察するに彼からの連絡がこないことにモヤモヤしてるのかしらね」


「……そんなんじゃ、ない……こともないけど」


 ごにょごにょと言葉は覇気を失う。

 その通りだ。

 クリスマスのあの日に、たしかにわたしたちの距離は縮まった。


 縮まった……はず、なんだけど。


「そんなに気にするくらいなら、こっちから連絡すればいいでしょ。行動しなかった後悔っていうのはいつまでも残り続けるわよ」


「ううん」


 唸る。


 たしかにそうなんだけど。

 たしかに、わたしから誘えばいいだけの話なんだろうけど。


 こんなことを言うと彼に失礼かもしれないけど、誘えばほとんど予定がないであろう志摩くんはきっと受け入れてくれる。


 けど!


 せっかく距離が縮まったのだから、一度くらい志摩くんから誘ってほしいというのが、乙女心というものではないでしょうか。


 なんというか、わたしから誘うことはあっても志摩くんから誘ってくれることはなくて。

 だから、誘うことは迷惑でないということを、あちらから誘ってくることで証明してほしいというか。


 自分でもよくわからない。


 複雑だけど、とにかくそんな感じ。


 けど、たしかにこのままなんの連絡もないまま冬休みを終えるのはいやだなぁ。


 だったら、わたしから連絡した方がきっといいよね……。


 そう思ったときのことだ。


 ピコン! とスマホが音を鳴らす。この通知はメッセージアプリの通知音だ。


 わたしは誰からだろう、とスマホを手に取る。

 梓以外からも連絡が来ることはある。男の子からも、女の子からも。けれど志摩くんからは一度もこない……。


 まったく。


 ちょっといじわるな言い方になるけど、わたしがこれだけがんばってるのだから、少しくらい察してくれないものだろうか。


「……っ」


 メッセージアプリの通知はあまり見慣れない、けれどもずっと見たかったアイコンが表示されていた。


「顔、にやけてるわよ」


「……気のせい!」


 わたしは頬をぐにぐにとマッサージして、母に顔を見られないように後ろを向いた。


『もし暇な日があったら、初詣でもどうかな。俺、行く人いなくて途方に暮れてるんだ』


 そんなメッセージを読んで、わたしは思わず笑ってしまいそうになる。


 きっと、彼は途方に暮れたりしないだろう。


 一緒に行く友達がいなければ一人で行くだろうし、そもそも別に行かなくてもいっかってなる人だと思う。


 けれど。


 普通に誘うのはちょっと照れくさかったのかな。なにか一つ理由を添えようと考えている姿が簡単に思い浮かんじゃう。


『一緒にいこ(*^^*)わたしはいつでも大丈夫だよ!』


 こんな感じで大丈夫かな、と思いながら返事をすぐにする。


「いつになったかちゃんと言いなさいよ? こっちの予定を調整してあげるから」


 にやにやしながら母がわたしの手元を覗き込んでいた。

 だからわたしはすぐにスマホを隠す。

 

「覗かないでよ!」


 なんて言いながらも、ついつい口元がにやついているのを、今度はしっかりと自覚していた。



 *



『一緒にいこ(*^^*)わたしはいつでも大丈夫だよ!』


 悩みに悩んで、なんとか送ったメッセージにすぐに返事がきた。


「……言い訳がましいとか、思われなかったかな」


「なにか言った?」


「いや、なんでも。ところで、梨子よ」


「ん?」


 笑ってはいけない番組を観ていた梨子が、興味なさげにこちらを向く。


「お兄ちゃん、今年は友達と初詣に行くことになったぞ」


「どや顔うざ」

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