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第30話 お買い物は誰とする⑥


「日向坂さんはなにか食べたいものある?」


 館内のごはん屋さんを看板で確認しながら日向坂さんに問う。


「んー、特別これっていうのは今のところないんだけど。志摩くんは?」


「俺もなんでもいいかな」


 ああ、これ決まらないやつだ。

 俺はこの短いやり取りでそれを察した。


 となると、こういうときは男の方がスマートに店を決めるのがいいと聞くし、俺がパッと選ぶべきなのだろうか。


 けど、そうした場合にもし日向坂さんの気分に合わない店をチョイスしてしまったら。

 きっと日向坂さんは気乗りしないお店でも笑顔で「そこで大丈夫だよ」と言ってくるに違いない。


 それが一番困る。

 ならばせめて「そこはちょっと違うかなあ」とか言ってくれた方がこっちもやりやすい。


「逆に考えよ」


 俺がそんなことを考えていると、日向坂さんがパンと手を合わせながら言った。


「わたしたちのなんでもいいはつまりどこのお店でも問題なく入れるよってことでしょ?」


「まあ、そうだね」


「だから、逆に気分じゃないものを排除してとりあえず選択肢を減らしていこう」


「なるほどね」


 ということで、ふむと改めて館内マップを睨む。


「うどん蕎麦、はちょっと違うかな」


「わたしはね、カレーが気分じゃないかも」


「カレー嫌いなの?」


「んー、そういうわけじゃないけど。でも、カレーって食べたいときと食べたくないときない?」


「言わんとしてることは分からなくもないけど」


 それからお互いにあれやこれやと意見を出し合った結果、それなりにお店は絞られた。


「ハンバーグかイタリアンか寿司か」


「ぶっちゃけどれも捨てがたいかも」


「その中でも一つ選ぶとしたら?」


「志摩くんも選んでよ。いっせーのーでで指さそ?」


 ハンバーグかイタリアンか寿司。

 ハンバーグは好きな部類に入るけれど、昼っていうよりは夜に食べたいんだよな。


 寿司は別に嫌いではないけど、特別好きなわけでもない。入りたいと言われると拒む理由はないけどわざわざ自分から選択するほどではない。


「いっせーのーで」


 日向坂さんがなんの確認もなしに言い始める。まあ、おおよそ決めていたからいいんだけど。


 そして二人が同時に指を差す。

 俺も日向坂さんもイタリアンのお店を差していた。別に示し合わせたわけでもないのに同じお店を指差したのがなんだかおかしくて、つい笑ってしまう。


「ふふっ」


 すると、日向坂さんも同じタイミングで笑みをこぼす。それがおかしくて、また二人で笑ってしまう。


「それじゃ、行こっか」


「そうだね」


 日向坂さんに言われて、俺たちはイタリアンのお店に向かう。

 店内はまばらに人がいる程度で問題なく中に入ることができた。


 内装もそうだけど、なんとなくお高いイメージのあるお店だったけど、メニューを見てみると意外とリーズナブルなお値段で驚いた。


「志摩くんはなににするの?」


「悩むね。ピザは捨てがたいけどそれだけだとちょっと物足りなさそうで。けど、パスタも食べると多そうじゃない?」


「わかる。じゃあ、ピザは半分こしない?」


「それは名案だ」


 そんなわけで注文を済ませる。

 ピザを一枚とそれぞれがパスタを一つずつ。俺はよく分からなかったのでオーソドックスっぽいトマトソースのなんちゃら。日向坂さんは和風なんちゃらのパスタを頼んだ。


「志摩くんはプレゼントの候補、なにか考えた?」


 注文の品が来るまでの時間、日向坂さんがそんな話題を振ってくる。

 今日の目的がそれなので、妥当な話題選びではある。


「昨日ちょっと調べたりしたけど、全然これっていうのはなかったんだよね。日向坂さんは?」


「わたしはある程度目星はつけてきたんだけど、それよりいいのがあれば変えるかも」


 さすがだ。

 俺とは積んできた経験が違うんだろうな。


「値段が千円程度って決まってるから選択肢はそこまで広くはないと思うんだよね」


「そういうもん?」


「うん。もちろんそれでもいろいろあるし、選ぶ人のセンスは出ると思うけど」


 ですよね。

 センスを問われるのが本当に困るんだよな。そういうセンスは皆無だから喜んでもらえる気がしない。


「熟考した結果、実用的なものがいいと思うんだよね。なんなら消耗品がベスト」


「そ、そうかな?」


 いろいろと調べたけどどれもピンとこなかった。自分が貰って嬉しいか否かを基準としたけど、やっぱりこれというのはなくて。


 だから考え方を変えて、もらっても困らないものと考えたとき、出てきたベストアンサーがそれだった。


「あると便利じゃない? 困らないというか。なんなら最悪捨てれるし」


「考え方がネガティブだなあ」


 俺の意見に日向坂さんは呆れたように言葉を吐いた。


「プレゼントなんだし、せっかくなら冒険してみたら?」


「けど、それで欲しくもないものだったら? まして、それがへたに心こもったチョイスだったら捨てにくいでしょ」


「いやいや、一生懸命選んでくれたっていうのが嬉しいんだよ。心がこもっていた方が嬉しいよ、絶対!」


 それを詭弁だと切り捨てるつもりはないけれど、それはやっぱり理想論だと思う。


 考え方は人それぞれ違う。

 日向坂さんがそうだとしても、クラスメイトの大半はそうではない。

 日向坂さんにプレゼントを渡すならばそれでいいけど、今回は不特定の誰かに向けたものだ。


 それに、選んだのが日向坂さんや財津のようなクラスに馴染んだやつならばハズしても笑って澄むかもしれない。

 が、俺は違う。

 笑うには至らず、喜ぶには足りず。そして微妙な空気になって愛想笑いが飛び交うのだ。

 いや、愛想笑いが飛び交うのならばまだいい。最悪、毒を吐かれて空気が壊れる可能性だってある。


 だから、冒険はやはりリスクが高い。


「お待たせしましたー」


 と、そんな話をしていると頼んでいた料理が運ばれてきた。

 俺たちの前にそれぞれ頼んだパスタが置かれる。

 ふわりと、湯気と一緒に空腹を刺激するいいにおいがしてきた。


 ぐうううう。


「……食べようか」


「……うん」


 こういうとき、気の利いたセリフの一つでも吐ければいいんだけど。笑いに変えてあげることさえできない俺はやはり冒険するに足るセンスも資格もなさそうだ。

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