ブッチャー
「そうか。まあ、一体は強い奴と契約しておくのが良いだろうな」
肉屋、お前は何か強い奴と契約しているの?
確かに……なんつーかブッチャーって感じの筋肉質なおっさんにも見えるけどさ。
どんな魔物と契約しているのか気になるけど、深く踏み込まない様にしておこうと思った。
じゃないとブッチャーに俺が肉にされるかもしれないし。
我ながら冗談にしても酷い考えだ。
「近日中に募集してある漁の手伝いの為に海岸沿いで良さそうな魔物を候補にしようと思っています」
「ま、妥当な所か。村で採れる魚目当てに商人共が来る。参加すれば良い金にはなるだろう」
「ええ。そんな訳で色々と昼からやって行きます」
と答えるとブッチャー……じゃなくて、肉屋はわかったとばかりに頷いてからカウンター席で客を待つように座った。
「がんばってください」
「はい」
「これ……お弁当です」
シャロさんが俺にバスケットを手渡してくれる。
中を確認するとサンドイッチと焼肉っぽい食べ物が入っていた。
「よかったら食べてください」
「何から何まで……ありがとうございます。後でバスケットを返しに行きますね」
「はーい」
シャロさんの笑顔が眩しい。
「では行ってきます」
「いってらっしゃーい」
俺はそのまま肉屋の裏手から出た。
時間は……もう昼かよ。
朝飯食ったら昼まで働かされたぞ。
まあ良いけどさ。
他人の家の裏手で勝手に野宿するとこういう目に合うという教訓にしておこう。
そういや昨日釣れた魚がまだ一匹残っていたな。
……まだ腐って無いな。
とりあえず海岸沿いの方へ行ってみるか。
って感じで海岸へと足を運ぶ。
港とかは無い感じ。
村は丘の上にあって、階段を下りて行くと海へ出るみたいだ。
川は迂回する形で海へと行くのか……結構大きな海岸みたいだ。
村への道の近くには港と言うか桟橋があって、小船が並んでいる。
一番奥には大きな船があるなぁ。漁船みたいだけど。
アレに数日後乗って、漁に参加する……のかな?
なんて思いつつ海岸沿いを歩いて行く、村から離れるとチラホラと魔物の気配と言うか何かを感じる。
危険な魔物とかもいるかもしれないから注意しなくちゃ。
「何か手頃な魔物とかいないかな?」
まあ、人里近くだからそこまで凶悪な魔物は生息していないと思う。
危険な魔物なんて人里近くに高頻度で出没するなら、あの村なんて速攻で廃村だろう。
そもそも危険な魔物が出るならば冒険者や見習い、志望の連中に討伐依頼とか出るだろうし。
そう思っていると、村へと続く川へとぶつかった。
「へー……ここに繋がってる訳ね」
なんて思っていると海岸の反対側に魔物を発見した。
「キュ?」
川辺で野宿しようとした時に聞こえた動物の声の主っぽい魔物だった。
白と黒のタキシードを着たみたいな柄……黒いくちばし、見た目はペンギンだ。
大きさは俺の腰くらい。
コロンペンギンという名前だ。
目を凝らすと名前が確認出来る。
こっちでもペンギンなのか。
海岸沿いをよちよちと歩いており、ペンギンたちはコロニーを作っている。
思い思いに砂を掘って巣にしている感じ?
俺の知るペンギンとは生態が違う気がする。
ペンギン達を確認すると、別種……じゃないか同種内の成長度合いで名前に差が生まれているようだ。
コロンペンギン→ガラコロンペンギンと成長に応じて姿と名前が変化する。
幼い個体は総じてコロンペンギンって名前だな。きっと。
思わぬ来訪者である俺の出現に対してペンギン達は警戒こそすれど、接近して来ない俺に攻撃的な態度は見せない。
お? コロニーの真ん中には他のペンギンの3倍以上の大きさを持っているガラコロンキングペンギンと言うのがいる。
アレがここのボスなのかな?
なんか何羽かボスに寄り添うように集まっているし、モテモテって感じだ。
ちなみにガラコロンペンギン以外にもペンギン系の魔物が沢山いる。
まさにペンギンの巣だな。
ボスは俺を凝視して警戒しているけど、特に何かする気配は無い。
確か……コロンペンギンは陸上ではダブグレイロードキャタピラーよりも弱い魔物だったはずだ。
足が鈍重で攻撃もそこまで強力な物は所持していない。
苦も無く……生け捕りにさえ出来るだろう。
「キュウ?」
で、俺の方に好奇心旺盛っぽい一羽のペンギンが近寄ってくる。
ヨチヨチと……動きが凄く緩慢だ。
「ヨ! 別に何かするつもりじゃない。たまたま遭遇しただけだ」
「キュ!」
俺が手を上げて挨拶をすると好奇心旺盛な一羽が合わせてフリッパーを上げた。
おお、可愛げあるな。
「んー……じゃあお近づきの印として」
ポイっと残り物の魚を近づいて来たコロンペンギンの一羽の足元に投げる。
コロンペンギンは何度かその魚をくちばしで突いて様子を確認してから摘まんで食べた。
「キュウウウ!」
美味しかったのか体を使って喜びを示している。
良い感じに友好を掴めたかな?
「キュウウ!?」
そう思って一歩踏み出すと、コロンペンギンは急いで振り返って逃げようとしてしまった。
……信用はされてないって感じだな。
アレ? あのコロンペンギン、他のコロンペンギンと柄が少し違うな。
胸にV字の模様があって、背中に銀色の二本の筋っぽい模様がV字に合わせるように肩から尾っぽまで続いている。
誰かのいたずらか?
探せば他にも変わった柄のコロンペンギンが居るみたいだけどさ。
「まあ良いや。じゃあな」
手を振ってそそくさと俺はその場を後にしたのだった。
んー……とりあえず手頃そうな魔物を見繕いながら契約に必要な道具を買う為の金を貯めておこう。
なんて思いつつ、俺は村へ戻って掲示板でその日の仕事を受けたのだった。
畑の水撒きの仕事を任された。
その次は酒場で皿洗いのバイト。
なんで異世界でアルバイト生活をしているんだろうと思わなくもないが、お金が無いんだから仕方ない。
道具屋や肉屋でちゃんとした仕事でも覚えるべきか?
魔物を狩って素材を売る方が楽かもしれない。
かと言って武器代と契約費の捻出が難しいか。
で、夕方頃になってやっと仕事を終えた。
今夜はちょっと豪勢に焼き魚と水撒きの仕事でついでにもらった野菜を肉屋に持ち帰ると、シャロさんと店主が野菜炒めにしてくれた。
ちょっとした団欒に参加させてもらった気分だ。
シャロさんは食事を終えるとそそくさと出かける準備をしている。
どこへ行くのかな? なんて思っていると苦笑いを浮かべられる。
「夜だけ酒場でウェイトレスの仕事もしているんですよ」
「ああ、なるほど」
シャロさん可愛いもんな。
さぞ人気のウェイトレスとして持て囃されているのだろう。
俺も今度酒場に行ってみようかな。
「……」
店主の鋭い眼光が俺を射抜いた様な感覚を覚える。
「?」
シャロさんが背筋を凍らせる俺に首を傾げている。
と、とにかく、シャロさんが店主の保護下に居るって事で、生半可な連中は手を出さなそうだ。
ある意味、安心かもね。
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
シャロさんはそう言って酒場へと仕事に出かけて行った。
「魚ー……」
寝る前に何かする事は無いかと思い、肉屋の裏で釣りをする。
一人で空しい鼻歌を歌いながら川辺で釣竿を垂らす。
漁村の人は魚を買ってくれない。
行商の商人っぽい人に売り付けるか考えよう。
そのままだと売れないかもしれない。
干物にでもするか?
「ふー……」
川辺で食事を終えた所で、川から昼間見たコロンペンギンがいる事に気づいた。
手を上げると合わせてフリッパーを上げている。
「キュ!」
「昼間の奴か」
大きさや柄が同じだったのでわかった。
目立つな、お前の柄。
川を遡って村の近くまで来ているのか。
まだ魚が残っているんだよな……また焼いて食っても良いけど、まあ良いか。
ポイっと投げ渡す。
すると器用に川から飛び出してコロンペンギンはキャッチして食べた。
「キュウウ!」
「じゃあな」
割と友好的な関係になってきた気がする。
なんて思いながら俺は肉屋の用意してくれた物置きで厄介になった。
肉屋も当然とばかりに目を瞑ってくれている。
ただ、また焼き魚かって顔はされたけどさ。
ちなみに本来の意味におけるブッチャーは職業名です。




