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報告

 その日の夕方。

 いやー……異世界の回復魔法って便利だね。

 生きていれば傷とか直ぐに回復する。

 とは言っても俺の場合、かなり無茶をしたらしく、ステータスや契約システム等のいろんな所にダメージが出て、上手く反映されないとの指摘をされた。

 まだ歩くのもおぼつかなくて寝かされている。


 マリウスも同様にダメージが酷くて俺と同じくベッドで横に成っている。

 あ、別室だけどね。


 肉屋の店主が一度顔を出したな。

 事情はある程度察したみたいで、特に話はしないけど俺達の事を確認に来てくれたようだ。

 しばらくして店へと戻って行ったけどさ。


「シャロさん、その、ありがとう」

「いえ、私達、仲間ですし、当然の事ですってそうではなく……」

「ああ……」

「ヒロさんは……マリウスさんが誰かに乗っ取られた様に、誰かに体を奪われて、奪った相手の体でここに来たんですね」

「……うん」

「そして私は……よく、わかりませんが。その力に干渉出来ると言う事なんでしょうか」

「よくわからないの?」

「はい……ただ、さっきの魔法も成り変わられてあまり時間が経っていない状態じゃないと効果が無い様です。あまり時間が経っていると魂を体から抜き取るだけで、奪われた人物の魂を手繰り寄せられなくなるみたいです」

「そっか……じゃあ、俺に掛けても効果は無さそうだね」


 俺は随分とあっちの世界で生活しているからな。

 とはいえ、これで決まったな。

 マリウスが身体を奪われた様に、俺だった誰かは身体を奪われたんだ。


「はい、申し訳、ありません」


 シャロさんは非力を嘆く様に頭を下げているけど、何も悪くなんかない。


「ううん。気にしないで。どうしたら良いかとか手立てが無いとかじゃないんだ。シャロさんは大した事じゃないと思っているかもしれないけど、俺からしたら凄い事なんだ。どうか……これからも俺と一緒にいてほしい」


 彼女の力があれば連中から奪われた人物の体だけでも救う事が出来るのが分かっている。

 せめて奪われた人の体だけでも助ける術があると言うのは大きな収穫だ。

 もしも……俺を奪った奴と遭遇したら体を返して貰う事だって出来るんだから。

 どのような経緯で彼女がそんな力を授かっているのかは……分からない。

 けれど、俺達が授かった欠片が力となってくれたのだけは理解出来る。


「はい……こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」


 シャロさんも自身が俺と同じ様にエクスチェンジとの関わりがあるのだと知り、やる気を見せている。

 こうして俺とシャロさんは結束を強めた。

 頑張って行かないとなぁ……。


「失礼するわ」


 そこにリリカさんがやって来て声を掛けて来る。


「意識を取り戻したマリウスが貴方達を呼んでいるわよ。ヒロ達も疲れているみたいだし、後にする?」

「いえ、今から行きます」


 あんまり力が入らないけど、無理をして立ち上がってベッドから出る。 

 シャロさんが俺の支えに成ってくれて、その足でマリウスの病室へと向かう。

 マリウスもベッドに座る形で待っていてくれた。


「やあ、来てくれたようだね」


 マリウスはやってきた俺達を見て軽く微笑みながら出迎えてくれた。

 リリカが椅子に寄りかかり、マリウスの手を強く握って俺達の方を見つめる。

 ……とても近いはずなのに遠い場所に行ってしまっていた人だもんな。

 何時同じ事が起こるか恐ろしいからこそ、手が離せないのだろう。


「怪我の具合はどうだい?」

「えー……概ね問題は無いです。明日には自由に動けるようになると言われました」

「それは何より、それでね。ヒロ……幾つか質問をしても良いかな?」

「そ、それはー……」


 シャロさんと見合った後、マリウスとリリカさんへと視線を向ける。


「僕には何が起こっていたのかを知る権利があると思う。リリカからも少し聞いているけれど、どうかヒロ達にこそ答えて貰っても良いだろうか?」

「……」


 マリウスは被害者だ。

 何も話さずに居ると言うのは無理だし、事情くらいは聞くべきだろう。


「答える前に、マリウスさん。今日の朝から病室で意識を回復するまでの事を覚えているでしょうか?」


 シャロさんが返答を吟味している俺よりも早く、マリウスに尋ねた。

 するとマリウスは静かに頷いてから答える。


「生憎と……ただ、妙な夢を見ていた気がする。その夢から覚めたら体中が軋んで脱力感と痛みが来て驚いた」

「妙な夢ですか?」

「うん。何処とも分からない部屋で座って何かをしている夢だったかな。特に大きな変化は無かったと思う……その後は、ヒロやシャロさんの声と共に夢から覚めた……気がするって所だよ」


 だから、とマリウスは続け俺達に微笑んだ。


「ありがとう。何かから僕を助けてくれたんだよね?」

「はい……」

「それと、リリカが泣きながら抱きしめて来てちょっと苦しかったな」

「もう……マリウスったら……」


 これだけは断言できる。

 俺達はエクスチェンジが引き起こした身勝手な肉体交換からマリウスを助ける事が出来たんだ。

 ならばマリウスには事情を説明すべきかも知れない。


「シャロさん、マリウスには話を聞いてもらっても良いかもしれない」

「そうですね。マリウスさんの言うとおり、知る権利はあると思います。けど、大丈夫でしょうか?」

「一度受けたなら耐性とか、出来ている事を祈るしか……無いかな。マリウスもはぐらかされるよりは良いでしょ」

「……わかりました」


 軽く相談をしてから俺はマリウスへ、事情を説明する事を決めた。


「何が起こっていたのかの説明をします」

「うん」

「マリウスは……とある不正な力で、他者に体を奪われていたんだ。そのマリウスが見た夢は夢じゃなくて、その奪った奴の体と記憶を押しつけられて、代わりを演じさせようとしていたって状況だったんだよ」

「な、なんだって? いや、確かに……若干だけど僕じゃない記憶がある様な気がする……続けて欲しい」

「それでマリウスの体の方は、別人が乗り移ってマリウスの振りをしようとしていた。そこを俺達が見抜いて指摘したら妙な力を使って周りの人達を意識まで拘束し、無事だった俺達に襲い掛かってきた……結果は分かると思う」


 荒唐無稽な話にも聞こえるかもしれない。


「……なるほど、そう言う事が起こっていたんだね。リリカの言う通りだったんだ」


 けど、マリウスは俺の説明に対して何度も頷いてから納得してくれた。


「でも、僕の体を乗っ取るなんて、とんでもない事をする奴が居た様だけど、僕自身はされた覚えが無い……」

「それがこの敵の恐ろしい所で……」

「戦ったり魔法を受けたり契約で縛る訳でも無く、マリウスの了承も無くこんな事を仕出かす事が出来るなんて……恐ろしい話。こんな事はいち早くギルド等の関係各所に報告を――」


 と、リリカさんが続けようとしてマリウスはリリカさんに視線を送って首を横に振る。


「この力は権力者にも施す事が出来る可能性はあるのかな? そんな真似をされているとしたらギルドに報告した途端、大変な事になると思う」

「――!?」


 リリカさんが絶句している。

 さすがはマリウス、理解が早い。

 その手の問題は絶対にあると思っていた。


 この件を、ギルドなり国内の偉い人物なりに報告したとしよう。

 その人物がエクスチェンジを使用している奴だったらどうする?

 更に上の偉い人物に成り変わられていたら?


 エクスチェンジで入れ替わったのを元に戻す事が出来る連中が居ると知ったら、俺だったら間違いなく排除しようと動き出す。

 それでは俺達の活動に支障をきたすだろう。

 最悪、難癖を付けてお尋ね者にでもされて殺されかねない。


「リリカ、明日には君が被害者になる可能性だってあるんだ。これは……そう言った危険が付きまとう出来事だと思ってくれ」

「……おそろしい事態よ。どうしたらいいのか……」


 事の重さをリリカさんも把握して頷きつつ、怒りを堪えるように拳を握りしめる。


「彼等はある日突然、誰かに成り変わるので、ギルドや国の重鎮に成り変わっている可能性は否定できません。ギルドの権力者にいる可能性はあると思います」

「仮に現時点で成り変わっていなかったとしても、次の瞬間に成り変わっているかもしれない。恐ろしい話だね」

「ですから、出来る限りは秘密裏に動きたいと考えています」

「なるほど、君達が内密に行動しようとしていた事に納得が行ったよ。こんな何者かからの干渉を受けては話すに話せないだろう」

「もちろん、このまま内密に行動しているだけでいるつもりはありません。俺達は成り変わった人物を見抜けるので、自ら報告し、もみ消しも出来ない、信用出来る偉い人物に事情を説明して動いて貰おうと考えています」


 まあ現状、そんな人物に宛てはないんだけどな。

 とはいえ、協力者が必要なのも事実だ。


「わかったよ。判断はヒロ、君達に任せる。僕は今回の件はヒロ達の言う通りに行動するとしよう」

「ありがとうございます」

「ミトラ達には……そうだなぁ。昔契約していた相手に呪いを掛けられて妙な魔法を使っていたのをヒロ達に止めてもらったという事にしておこうかな。酩酊状態で変な事を口走ってしまったと謝っておくよ」


 嘘を言うのは一部の真実を混ぜておくのが良いって話を聞いた事がある。

 エクスチェンジが起こした肉体交換を契約相手が起こした悪さによる暴走と言う嘘で塗り固める。

 これで辻褄は……合う、はずだ。


「その後はどうしたら良いかな?」

「この出来事がいつまで続くかはわからりません。ですから普段通りに行動して行くのが良いと思います」

「じゃあ、いつ乗っ取られても対処できる様にヒロの近くにいると言うのも、悪くは無さそうだね」

「……確かにそうですね」

「それじゃ、しばらくは冒険者仲間として、ヒロ……君とは良い冒険が出来そうだ」


 俺はマリウスの提案に頷く。

 するとマリウスは笑みを浮かべる。


「なんか、ヒロ達と前よりも仲良くなった気がするよ。色々あったけど、結果的にはプラスかな」


 うん、やっぱりマリウスはこんな感じの人だよね。

 そう、強く実感する。


「じゃあ、改めてよろしくお願いするよ。ヒロ、シャロさん」

「ヒロ、シャロさん……」


 リリカさんが胸に手を当てて祈る様に、それでありながら心からの感謝を宿した表情で答える。


「ありがとう……貴方達のお陰で助かったわ」


 こうして俺達はマリウス達との話を終えた。




 マリウスとの話を終え、体調も回復した後の事。

 辺りは既に日が落ちて夜の色が濃くなって行っていた。

 そんな中で俺は空を見上げてシャロさんに声を掛ける。


「エクスチェンジか……」

「とんでもない現象を引き起こしますね」

「そう、だね」


 今までの出来事を思い出してドッと疲れが出た様な気がする。

 今夜は早めに休んで明日に備えるべきだろう。

 ああ、治療費で頭が重い。


「……本当のヒロさんは……どんな人物なのでしょう?」

「わからない。それを知る為に俺はこの世界に来たんだ」


 エクスチェンジによって強引に自分を奪われ、俺は中藤洋としての記憶と、自分だった残滓とも言える既視感しか持ち合わせずにこの世界にやってきた。

 本当の俺はどんな人物なのか、それは既視感を頼りにしても良くわからない。

 妙に博識って所位かな?

 エクスチェンジの説明文から推察するにそれこそ物凄く強い冒険者とかなのかもしれないし、マリウスの様な人物だったのかもしれない。


「今回の様なギリギリの戦いにはならない様に、俺達は頑張って強くならなきゃなぁ」

「そうですね。一人でもマリウスさんのような人を救えるように、努力して行きたいです」

「うん。さてと……それじゃ明日に備えて、今日はゆっくりと休んで行こう。俺達の戦いはまだ続くんだからね」

「はい」


 他人の人生を奪って成り代わり、やりたい放題をする卑劣な奴から、奪われた人を助ける。

 そして何時か、俺を奪った奴から体を返して貰うんだと、俺は改めて決意を固めたのだった。

 孤独な道だと思っていたけれど、信用出来る仲間が居る。

 少しでも俺の手の届く範囲で、エクスチェンジが起こす悲劇を回避出来る様に……異世界での生活を続けて行こう。

 こうして俺の、初めての戦いは終わったのだった。


一章完です。

二章開始までは一応完結表示にしておきます。

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― 新着の感想 ―
気になる点 不用意に話すと…という話があったのにリリカの前で躊躇無く話し始めてしまうのはまずいのでは? おれたた──
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