マリウス
翌日。
「ふわああああ……」
昨日はあの後、ガラコロンペンギンとスキンシップに付き合っていたら寝るのが大分遅くなってしまっていた。
ぶっちゃけ眠い。
だけど、いつまでも寝てなんていられない。
なんて思いつつ、シャロさんと一緒に村の依頼掲示板のある広場へ向かう。
ちなみに今日は肉屋の仕事は無かった。十分にLv上げが出来る。
そんな……平和な、何時もの日常になるはずだった。
「お? いたいた。おーい」
と、声を掛けようとしたその時。
ドクン……ドクン……ドクンと、謎の鼓動が俺の……心臓とは異なる別の器官から発せられている様な気がした。
「ヒロさん」
シャロさんが俺の背中を突いて不安そうな顔をしている。
「もしかして……シャロさんも?」
「はい」
コクリとシャロさんも頷く。
俺が感じる嫌な気配をシャロさんも理解している。
「ん? ああヒロとシャロさんか、俺達と一緒に魔物退治でも行かないか?」
ミトラ達と……マリウスがそう、俺達を出迎えの挨拶とばかりににこやかな笑みを浮かべて手を上げている。
だが、その歩調と言うか、歩き方が昨日までの見知ったマリウスとは何か異なる。
リリカさんやミトラもなんとなく察しているのか首を傾げている。
ドクン、ドクン、ドクン!
心臓の鼓動とは異なる何かが強まって行く。
「ねえ。俺の見立てだとシャロさんは十分な才能があると思うんだ。この際だから一緒に行かない?」
「い、いえ、折角ですが私は私のやりたいようにしたいので」
シャロさんが丁重に断る。
しかし、マリウスは引かずに更にシャロさんに近づいて行く。
リリカさんが眉を寄せる。
「マリウス?」
「そう? 俺の強さがあれば君はすぐに強く慣れると思うよ? ミトラ達の育成も合わせて今度はシャロさんと……そうだな、奴隷に堕ちている子でも購入して育てようと思っているんだけどさ」
昨日は俺の方に興味があると言った様子で時々声を掛けていたのに、俺が居ないかの様な態度で、俺の目の前でシャロさんをしつこく勧誘している。
俺は深呼吸して、しつこくシャロさんに勧誘しているマリウスの腕を掴む。
「……いい加減やめるんだ。シャロさんが嫌がっているだろ?」
「なんだ、ヒロか。お前が俺に意見するってどう言うつもりだ? お前はまだ冒険者にもなっていないLv20以下だろ?」
シェルテスとカークラットが俺とマリウスの両方を見て不安そうにしている。
明らかに不穏な雰囲気だからな。
「Lvとか立場は関係ないだろ? シャロさんが断っているんだ。しつこいんじゃないか?」
「こんな所でノロノロとLv上げなんかしているよりも良い所を俺は知ってるから教えてやろうと思っているだけだろ、助言だよ」
……これで隠しているつもりなんだろうか?
この場にいるのはマリウスと一緒に苦楽を共にしてきた仲間達なんだぞ。
「いい加減にしてください!」
シャロさんが怒りと共に拒絶して距離を取る。
「何だよ。その態度……ああ、なるほど。それならいらないな」
シャロさんと俺を交互に見て、マリウスは踵を返そうとした。
もはや確信染みた感覚が俺とシャロさんが揃って覚える。
心臓の鼓動の様な音がうるさくて、ジンジンして来る。
「マリウス? 本当、どうしたの?」
まるで別人のようだとリリカさんも信じられないと言った表情でマリウスに声を掛ける。
「気にする必要なんかない。さ、みんなで魔物を倒してLv上げをしよう。シェルテスとカークラットは別の依頼を俺が見繕って置いたからこれをやれ、それが一番だ」
「何を言ってるの? 彼等の自主性は重要でしょ? 引き上げるのは貴方の方針じゃないわよ」
「考えを変えたんだ。効率って大事だろ?」
……違うだろ?
お前の選んだ仲間を見てみろ、リリカさん、ミトラ、シャロさん。
みんな……女性だ。
女しか連れだっていない冒険者と言うのは問題があると周囲に思われる。女癖が悪いって印象はバカに出来ないんだぞ?
……もう、我慢できそうにない。
「待てよ」
俺はマリウスの肩を掴んで止める。
「何だよ?」
「いい加減、マリウスの振りをするのをやめろ。お前はマリウスじゃない」
「は? お前、頭大丈夫? つーかいつまで肩を掴んでるんだ! 放せ!」
バッとマリウスが俺の手を振り払って距離を取りつつ剣に手を掛ける。
「マリウスさんはそんな口調や態度じゃないわ」
「一体どうしたと言うの?」
リリカさんが詰問する様にマリウスに尋ねる。
「な、何を言っているんだ。今までお前達に冒険者として重要な事を教えていたマリウスに決まってるだろ? 一体どうしたって言うんだよ!」
俺とシャロさんは揃って武器を手にして構える。
わかる……俺にはマリウスが俺達の知るマリウスではなく、別の誰かに成り変わられてしまったと言う事を。
「マリウスにしか見えないけど、おかしいわ」
「そ、それは……君達が信頼に足る人材だと判断したから堅苦しい態度をやめて仲間として声を掛けたんだよ」
「ヒロやシャロとの会話が無かったら信じたかもしれないけど、幾らなんでも無理があるわね」
ミトラも不穏な気配に臨戦態勢に入る。
リリカさんの方は今まで一緒にいたマリウスの変化に戸惑いを隠せずに居るようだ。
「妙な悪魔とでも契約したのか何かわからないけど、白状しなさい」
するとマリウスは舌打ちをしながら剣を抜いて俺に向かってLvによる早さを駆使して切りかかってくる。
早い!
重い衝撃と共に火花が散った。
咄嗟にヘルロードスピアを前に出して剣筋を受け流すのでやっとだった。
「チッ! ここでこの力を使う羽目になるとは思わなかったぜ!」
僅かに距離を取ったマリウス……ではない誰かが魔法の光を出して握りつぶす。
すると淡い光が俺達を照らす。
「あ……」
「え……?」
「う……」
俺とシャロさんの周りに光の膜が発生して、光が逸れて行った。
ミトラ、シェルテス、カークラット、そして周りにいた連中が揃って硬直する。
動けるのは……俺とシャロさん。そしてリリカさんだった。
「マリ、ウス?」
それでもリリカさんへの効果は強く、とても戦える様な状況に見えない。
「さすがにリリカにはこれだけじゃ効き切らないか……ま、勿体無いけどもう一度掛ければ十分だな」
「ふざけるな!」
ヘルロードスピアを振りまわしてマリウスを突く。
が、奇襲に驚きこそされど避けられてしまった。
「な、何!? お前等……なんで効果が無いんだよ!」
既視感には無い攻撃だ。
一体どんな効果があるのかは不明だけど……あまり良い物では無いのは即座にわかる。
「さてね。それを説明する必要はあるのかな? それよりもお前は一体何をしたのかを聞くとしようか」
「く……何なんだよお前等は! いきなり俺に襲って来るだなんて、身の程を知らないのか!」
「襲ってなんていないだろ? お前が不自然にシャロさんを勧誘しようとしたから怪しまれただけだ。まあ、最初から疑っていたけどな」
「ふ、ふん! これもチュートリアルイベントだろ? お前等みたいな奴を返り討ちにすれば良いんだな! 行くぞ!」
マリウスがそう言って、腰を落として突撃してくる。
この挙動はステップからのパワースラッシュだ。
俺達よりも遥かにLvの高いマリウスが放つこのコンボ攻撃に俺は咄嗟に受け流すことしか出来ない。
「ふん! その程度の力で俺に勝とうなんて百年早いぜ!」
更にマリウスは防御する俺にパワーバッシュ1から続く連続攻撃を放って来る。
パワーバッシュ2、パワーバッシュ3……更にここから巻き切りをして俺を乱暴に武器毎投げ飛ばす。
うぐ……ぐ……。
「おっと、この程度の雑魚か」
守り切れずに投げ飛ばされた俺に追撃とばかりに突進しようとしたその時!
「マリウス、やめて!」
リリカさんの制止の声が響くがマリウスがやめる気配は見せない。
毛頭止まる気なんてないだろう。
「バインドワイヤー!」
シャロさんの魔法がマリウスに命中。
「何!? ぐ……体の動きが!?」
バインドワイヤー。
相手の動きを阻害させる魔法の糸を絡ませる弱体化魔法。
魔力を溜めて放てば一時的に動きを止める事も可能だ。
咄嗟に立ちあがって構え直す。




