親子疑惑
シャロさんが意識を集中して契約の魔法を唱え始める。
契約確認の項目が出た様だ。
チャカチャカとダリアパープルマジックスパイダーは契約を設定し始めた。
パアっとカードが出現する。
「はい。それで良いと思います」
シャロさんに後で聞いたらスタンダードのプランでOKしてくれたらしい。
割とアッサリ契約を終えてシャロさんの前にダリアパープルマジックスパイダーの契約カードが出現して契約を終えた。
よし、これで上手く行った。
「ありがとうございました」
シャロさんが頭を下げるとダリアパープルマジックスパイダーは背を向けて巣へと帰って行った。
……俺とは契約はしてくれない様だ。
まあ、カードは持ってないからしょうがないか。
必要になったら後日お願いしに行くとしよう。
「じゃあ用事も終わったし一旦帰ろうか」
「はい。ヒロさん、ありがとうございました」
「いえいえ、ところでどうかな? 良い技能あった?」
「ええ、パルスショックとスロウバインドの魔法と中級機織り技能を一度に使えるようになりました」
おおー中々に優秀な技能を持っていたみたいだ。
マジックスパイダーの名前はダテじゃないな。
「ただ、これ以上の技能を使うには私自身のLvとシンクロ率を上げて行かないと無理ですね」
「そこは少しずつがんばって行けばいいさ」
なんて話をしながら俺達は村への帰り道を歩いて行く。
「ヒロさん」
「何?」
シャロさんはロッドを握り締め、空を見上げてから俺の方を見た。
「こんなによくしてくれて……私の事をもう少し、聞いてもらって良いですか?」
ん? シャロさんに何かあるのかな?
肉屋に厄介になっているお手伝いに相談って事なんだろうけど。
「うん。何でも相談に乗るよ」
「ありがとうございます。まず……たぶん、ヒロさんが勘違いして居そうなことからが良いですよね」
「え? 勘違い?」
「はい。なんとなくですけど……店長と私を……親子と思ってませんか?」
「違うの?」
そう言った関係だと勝手に推測していた。
まさか夫婦って事はないだろうし。
父親と娘って方が自然だ。
俺の言葉を聞いてやっぱりと言った様子で額に手を当てている。
だって余計な詮索をしちゃ悪いじゃないか。
「違います。私もヒロさんとあまり変わらないですよ」
「そうなんだ?」
親しい間柄に見えたのは俺の勘違いだったのか。
「俺と同じ? と言う事はシャロさんも流れ者の商人なの?」
「そう言う訳じゃないですが……説明が難しいです。まずは私がどうして店長の所に上がり込んだのか説明しますね」
「うん」
そうしてシャロさんは語り始めた。
「私が店長の所に来たのは……みんなの話を聞く限りだと、半年くらい前に店長が背負って何処からか運んで来たんだそうです」
「人伝?」
「私の最初の記憶は……洞窟だったと思います。すぐにまた意識を失って、気付いたらあのお店の部屋のベッドの上でした。目を覚ました所に店長がやって来て事情を聞こうとして……私は自身に記憶が無い事に気付きました」
へー、記憶喪失って奴か。
実際にいるんだな。
まあ……これまでの経験的に俺も似た様なモノだけどさ。
「店長の話では鉱山で見つけたと仰ってました。たぶん、鉱山で倒れていたのを助けてくれたんだと思います」
「結構曖昧なんだね」
「見つかった所は辺鄙な所だったそうで……」
「ふむ……謎が結構あるね。なんでそんな所に居たのかとか」
そもそも肉屋がなんでそんな所に居たのか、とかは聞かないでおくべきかな?
あの人なら戦えるとは思うけどさ。
「はい。ギルドの人にも質問されて、記憶が無いと答えるしか無くて……出た結論は、契約時の代償か何かだろうと判断されました」
契約は時に危険な行為に足を踏み込む事がある。
今の俺やシャロさんは大丈夫だろうが、身に余る相手と契約する場合、多大な代価を支払うという場合もある。
大きな力を授かる代わりに代償を求める危険な契約は存在する。
それこそ、強力な魔物や悪魔との契約なんて行ったらね。
シャロさんに当てはめると、身に合わない強力な悪魔と契約し、力を行使する代わりに記憶を全て支払う……なんて事があったのかもしれない。
もちろん、シャロさんの状況から考えてLv……経験値とも言える魔素も一緒に没収されたのならば不思議ではない。
契約期間とかを定め、期日が過ぎたから全てを奪った……とかだろうか?
「冒険者の登録とかしていたら目撃証言とかで誰か分かりそうだけど……」
仮に全てを奪われたとしても、しっかりと身分を証明できる冒険者とかならば身元の特定は出来るはずだ。
幾ら契約とは言え、人の接点まで奪う事はまず出来ない。
「それもわからなくて……結局、私は記憶喪失の身元不明の女性として扱われる事になって、店長の元で手伝いをする事になりました」
「なるほどね。じゃあシャロさんの名前も……」
「はい。仮の名前です。店長が名付けてくれました」
確かシャルロットだっけ。
あの強面から出て来るとは思えない可愛らしい名前だ。
実は店主の部屋は少女趣味だったとかのギャップとかありそうだな。
とはいえ、だから親子関係は無いと。
後は肉屋の手伝いをしながら村での雑務……酒場のウェイトレスとかをしてお金を稼いでいる訳か。
「それで……その、ヒロさん。良ければなんですけど、これから冒険をする時はパーティーを組んでも良いでしょうか?」
「えーっと……シャロさんがそれで良いなら大歓迎だけど、俺なんかよりも頼りになる人は沢山いると思うよ?」
シャロさんの酒場での接客を見ると、冒険者の中で気に掛けている人はそれこそ無数にいるだろう。
だってシャロさんはかなりの美少女だし、可愛いと思う。
魔法も覚えれば強そうだし、条件は中々に良いはずだ。
「そのですね……なんて言うんでしょうか、ヒロさんを初めて見た時から、勘と言いますか……ピンとした何かを感じたんです。村にいる冒険者さんよりも頼りになるんじゃないかって、そう言った意味では頼りにしているのかもしれません」
「それはー……冒険者だったかもしれない記憶喪失前の記憶から来る勘?」
「かも、知れません……」
ふむ……シャロさんは所属不明の、ギルドに属さない強力な力に身を染める者だったのかもしれない。
もしくはこの国のギルドに属さず、他国の冒険者だったとか、可能性は無数にある。
そもそも顔だけじゃ判断出来ないだろうしなぁ。
シャロさんが俺に多大な期待というか勘を働かせているのはわかった。
「……このまま、出生の謎を探す事をせず店長の元で村娘をして生きて行くかと悩んでいる時にヒロさんがやって来て、私と似た様に無一文だったのにドンドンと環境を整えて行く姿に、私も負けない様にがんばりたいと思ったんです」
「あ、そっちの方が理由としては好きかな」
何だかんだ言って同じ店に厄介になっている訳だしね。
俺を見てがんばりたいと思ってくれたのならとてもうれしい。
「わかったよ。じゃあこれから何かあったら一緒に冒険に行ってLvを上げて行こうか」
「はい。どうか、よろしくお願いします」
頭を下げたシャロさんに俺も頭を下げてから握手を交わした。
こうして俺は一緒に冒険する仲間を得た。
「差し当たって……ダリアパープルマジックスパイダーさんに食料を献上すると糸を提供してもらえる事にはなっていますので、私は機織りの仕事を増やしますね。後で素材を共有しましょう」
「うん。ありがとう」
正直に言えばダリアパープルマジックスパイダーとの契約は駆け出し冒険者の相手としては破格な方だ。
ダリアパープルマジックスパイダーの糸で上手く布地や糸を売れば当面の良い資金稼ぎになる。
しかもローブ等を作ればシャロさんの防具としては破格の性能になるはず。
売値も悪くない。
「俺も冒険以外で出来る事はして……うん。まずはLv20を目指そう」
「はい!」
なんて話をしていたら、村が見えてきた。
仲間、しかもこんな美少女と一緒に専属でパーティーを組めるなんて思いもしなかった。
少しだけ異世界に来て良かったと思える日になったと思う。




