マジックスパイダー
「もう少し節約するべきだったかな?」
「駆け出しなら十分だと思うよ?」
これだけ基礎が揃っていれば村近隣を移動する分には困らないはず。
それ以上となると厳しいかもしれない。
俺の装備だって似た様な物だしね。
と言うよりも正式な資格を持っていない自称冒険者なんて言うのは、得てして武具の調達に苦悩するのが常……だったはず。
この下積みをどう乗り越えるかが重要な訳だしね。
「しっかしシャロちゃん、冒険者になりたいってまた言う様になったんだな」
「別に諦めた訳じゃないですよ。なんとなく気が乗らなかっただけですし」
またって事は以前にも言っていたのかな?
おそらく肉屋の店主に止められてーとか色々と事情があるんだろう。
「で? そこの男に触発されたって口か?」
「えー……っと、そうですね。否定しません」
冒険者になりたかったけど、それは夢でしかなかった。
けど無一文の俺が着実に冒険者に至れそうだから自分もがんばりたくなったって事なのかな?
あんまり勘ぐっても始まらないか。
「次に行きましょう。それじゃあ、ありがとうございました」
気まずいと思ったのか、シャロさんは話を切り上げた。
うん、俺も乗っておこう。
「うん。じゃあ、また来ます」
「毎度ありー」
武器屋を後にして村の広場まで来てから冒険者としてどうするかを話し合う。
「話の途中でしたけどヒロさんのお勧めはありますか?」
「まずは契約をしてからだね。でないと勿体無いし……ところで契約してないんだったらシャロさんのLvは1なのかな?」
「えーっと……Lvは5みたいです」
みたいですってまるで他人事のような言い方をするなぁ。
と、ここで気にしても始まらないか。
人には色々な事情があるからな。
さて、酒場での様子を見る限りだとシャロさんの人気は結構ありそうだ。
ステータスも魔法系らしいし、伸び代もある。
先程購入した装備も駆け出しとしては十分のはず。
誘えば二つ返事で仲間に入れてくれる先輩冒険者は多いだろうなぁ。
「シャロさんなら酒場の先輩冒険者に紹介してもらった魔物でどうにかなりそうだけど……」
「それは……避けたいですね」
「そうなの?」
「はい。その……ヒロさんの様にがんばりたいので、参考にしたいんです。あまり身の丈に合わない紹介を受けると危険だと思いますし」
俺も男だからちょっと誤解と言うか思い上がりな感情が浮かんでくる。
だけど、それはシャロさんに悪いのでここはキッパリと考えを切り変えて行こう。
正直に言えば俺を参考にするのは間違っている。
チャンスは出来る限り利用すべきであって、自ら放棄するのは怠慢だ。
自分達よりも強い人達が協力してくれる環境ならば出来る限り利用するのが本来は正しい。
マリウスみたいに後輩を育成して実績を稼ぐ段階まで育てると、それはそれで評価が上がったんじゃなかったかな?
なので引き上げてもらうのは間違いじゃない。
まあ……引き上げは別の意味で危険が伴うから一概にも言えないんだけどさ。
ああ、俺も引き上げてもらいたい。
考えが脱線した。
シャロさんの立場で考えると引き上げのリスクもある。
引き上げをする条件に、可愛いシャロさんを相手に野蛮な冒険者がどんな事を強要するかって話だ。
そのリスクを考えたら信用できそうな人に相談するのは間違いじゃない。
しかも身の丈に合わない魔物との契約は相応の危険も伴う。
相手の方が強い訳だからね。いつでも契約破棄される恐怖があるんだ。
「うーん……」
俺の知っている範囲でシャロさんに良さそうな魔物を説明……か。
あ、良い相手がいるじゃん。
「そうだ。やや格上になるけど良い相手がいるよ」
おそらく、シャロさんと相性は悪くないはずだ。
ただ、見た目とかでシャロさんが嫌がるかもしれないけど。
「なんですか?」
「それはー……」
契約と言う重要案件だ。他の人に聞かれない様に内緒話でシャロさんに提案してみる。
仮に失敗しても危険は無いと思う。
「わかりました。それで……その、ヒロさんさえよければ同行をお願いして良いですか?」
「もちろんだよ」
「紹介料は……」
シャロさんがお金を出そうとしたので慌てて手を振る。
「気にしなくて良いから」
「ですが……」
「上手く行くかもまだわからないし、シャロさんが俺を冒険に誘ってくれる際にがんばってくれるだけで良いよ」
約束していたもんね。
それにコネクションというのは芽が小さい内に作っておくのが良いんだ。
これは勘だけど、シャロさんは腕の良い冒険者になる気がする。
「わ、わかりました」
「今日は夜も遅いし危険だと思うから明日の朝にしよう」
と言う訳で俺達は翌朝、村から出て目的の魔物がいる場所まで移動を開始した。
道中で危険な魔物には遭遇しなかった。
まあ、ヘルロードスピアの前にロードキャタピラーもコクーンも怖くない。
「よっす」
さっそくとばかりに俺がお勧めする契約相手に声を掛ける。
その魔物は巣からつーっと降りて来て俺とシャロさんをその複眼で見てきた。
ギッチャギッチャと足を動かす音が響いている。
女性からすると嫌悪感を持ちそうだけど……大丈夫かな?
シャロさんを見ると、嫌悪感よりも強力な魔物の前に若干脅えと言った表情を浮かべている。
「これ、差し入れ」
巣に倒したロードキャタピラーとコクーンの死体を投げ込む。
そう、俺が会いに行ったのはダリアパープルマジックスパイダーだ。
ヘルロードキャタピラーを倒したお陰で進化している。マジックの前はポイズンだったな。二段階も進化しているのは素直に凄い。
出会った所より少し奥の方で巣を張っていた。
糸の色や艶が違うので割とすぐに特定出来た。
で、ダリアパープルマジックスパイダーは俺の差し入れを受け取って、すぐにキャタピラーとコクーンをぐるぐる巻きにして巣に放り投げる。
今回はなんだ? って様子だ。
一応、中立からやや友好的って感じになって来ているのかな?
「今回はお願いに来たんだけど聞いてもらえるかな?」
あ、そこそこ面倒そうって様子で頭を動かしてる。
俺じゃなきゃ追い返してるって態度だ。
「契約をお願いして良いかな? 相性を考えてこの子となんだけどさ」
カードを見せてボディランゲージを踏まえて提案する。
ギッチョギッチョとダリアパープルマジックスパイダーが俺を見た後、シャロさんへと視線を向ける。
「お願いできませんか?」
シャロさんが頭を下げる。
もちろん手土産にシャロさんが所持する魔石が差し出された。
何処で手に入れたかわからないけど、見た所悪くない品のはず。
ん? ダリアパープルマジックスパイダーが数歩下がったぞ?
ダリアパープルマジックスパイダーは恐る恐る魔石を受け取ってから、弾いてシャロさんに引っ付けた。
拒否された?
やや傷ついた顔をシャロさんはしたけれど、契約交渉の失敗は冒険者には日常だ。
この程度で諦めちゃー……と思ったらダリアパープルマジックスパイダーがシャロさんの頬を足で優しく撫でてから軽く足を差し出した。
「えっと……」
そのまま動かないって事は、契約を了承したって事で良いのかな?
なんかダリアパープルマジックスパイダーが俺の方を咎める目で見ている気がする。
何だろう、こんなイイ子を汚れた自分に紹介しに来て、バカじゃないの? って目をしてる気がする。
そういうお前は自分を卑下し過ぎだろ。
まあ、確かに蜘蛛と女の子の絵面は良くないかもしれないけどさ。
あれだよ。
アラクネとか、そういう……いや、なんでもない。




