肉屋の息子
「それで、どうしてお前はそこにいる? いや、言わなくて良い。村の者達の施しを受けているんだな」
質問しておきながら先に答えを言うってどういう会話だ?
会話が通じ無そうな奴だな。
「宿無しの無一文……冒険者や兵士でも無い他所者が何を目的にこの村に駐在しているのか……村を自警する俺達に言うが良い。場合によっては捕まえなくてはならん。村の為だ」
バカ息子はサッと剣を抜き、俺の頬に剣を軽く当てる。
何が村の為だよ。今日の騒動もお前がやったんだろ。
こんな馬鹿を放逐しているって領主……有能らしいが、このバカの存在で怪しくなってきたぞ。
アレか?
村の発展や事業とかの意味で有能だけど、治安維持とかは適当なのかもしれない。
ここで下手に喧嘩腰で応答したら相手の思う壺だし、理詰めで相手を論破しようものなら逆ギレされそうだ。
かと言って聞き流すと勝手に取り巻き扱いにしてきそうなタイプだな。
やはりいじめっ子だった野村を連想させる。
権力がある分、野村よりも厄介だな。
村の自警を名乗っていて、誰も止められない。
親は領主と来ている。
権力と警察を抱え込んだ野村みたいな奴と判断すべきだ。
この手の奴に目を付けられると抜け出すのが大変だぞ。
金も無いからそそくさとここを旅立つのだって大変だし……。
「ヒロさんは――」
シャロさんがこれ以上騒ぎに巻き込まれる前に立ち上がって制止する。
「ふん。特に理由も無いか宿無し。哀れな奴だな」
ここは付き合わない方が良いと思わせるのが吉だな。
どういう反応をすれば良いかな?
頭のおかしい奴のフリをするのも悪く無いが……よし。
「…………」
肉屋をイメージした眼光であると同時に哀れな物を見る目で沈黙し続ける。
近寄り辛い雰囲気を出したつもりだ。
「……」
「なんだお前は! 何か言いたい事でもあるのか?」
バカがなんか騒いでいるが、そのまま継続する。
今の俺は肉屋の関係者だ。
「貴様! 馬鹿にしているのか!」
チャキっと剣の柄にバカが手を掛けて引き抜き、俺の首元に当てる。
が、そこで怯む事無く見る事を続ける。
「何か言え!」
「……」
「何か言えと言っているんだ! 耳が聞こえないのか!」
と、酒場内に響く様な大声で叫ぶ。
あまりの大声に俺の近くにいたバカ息子の仲間は耳を押さえた。
よし、会心の一撃だ。
この手の粋がった奴には肉屋の真似が一番通じるな。
「く……」
逆に剣で切られる可能性もあるが、避けられる範囲で見ている。
本気で切る場合の動きはなんとなくわかる。
これで切られても致命傷にはならない。
剣の持ち方で実力の程は理解しているしな。
少なくとも俺なら対処出来る腕前だ。
「何なんだコイツは!」
「肉屋に厄介になっている奴です!」
鉱夫が尋ねられて俺を指差しながら説明する。
「ええ、店長がとても気に入った方ですよ」
シャロさんのお墨付きを頂きました!
するとバカ息子が苦虫を噛み潰したみたいな顔をする。
ちなみにロードキャタピラーの肉は苦い所があるっけ。
これはどうでも良い知識だな。
「い!? ふ、ふん、興醒めだ。こんな奴が近くにいては飯が不味くなる。出るとするか」
なんて捨て台詞を吐いてバカ息子は酒場を出て行った。
え? 肉屋ってだけでそんなにも効果がある訳?
あの肉屋何者だよ。元歴戦の戦士か何かか?
評価でコイツに補正働きそうだな。
とはいえ……上手く行ったか?
「ま、こんな所かな」
沈黙の後に睨みつけるのをやめて改めて座り直す。
出来れば周囲の人にも演技でしたって理解してほしい。
「……もしかして、今のは目を付けられない為の演技か?」
「当たり前じゃないですか。下手に出ても面倒そうだし、無視をしたら喧嘩を売られるし、言い返したら怪我をしかねない。目を付けられたら厄介ですし、なら相手に近寄りがたいと思わせるのが良いと思いましてね」
これで奴は村で俺を見つけても余計な干渉はして来ないはずだ。
横暴な奴は真性を嫌うもんだ。
彼は俺を見かけても無視しようと思うだろう。
「あの面倒なバカ息子がこうも容易くあしらわれるのを見るのは久々だな。肉屋か熟練の冒険者くらいなもんだぞ。絡まれて平気なのは」
「それ、物理的な怖さで話しかけて来ないんじゃないの? 肉屋に厄介になってるってだけで下がって行った感じでしたよね」
「むしろ肉屋の息子って感じだった」
ああ、やっぱ似ていた様に感じたか。
意識していたしな。
俺は息子ではないが。
「違いない」
「お前さん自体の行動でも効果は十分にあったと思うぜ。何も知らない奴だったら思わず距離を取る位だった」
「まったくです。結果は良かったですけど、やめてほしいです。ヒヤヒヤしました」
確かにアレは下手すれば斬り殺される危険性もあるか。
あの剣の持ち方なら避けられる自信があるけど、まあ善処しよう。
「お前……商人だったっけ? 大物になるんじゃないか?」
そんな事言われてもな。
って所で冒険者達が各々雑談を再開した。
あのバカ息子の話題で持ち切りみたいだ。
まあ、みんな不満に思っているって事だろう。
「あのバカ……冒険者に憧れてるみたいだが、剣術や魔法の勉強は真面目にやらない。契約だけでのし上がれると思ってるそうだ」
「挙句自警団気取りで自治をしようとしてな……厄介なもんだ」
……耳が痛いな。
既視感と契約だけでどうにかしている俺にも該当する話だ。
武術の方は素振りとかしているけど、本格的な事はしていない。
魔法に関してはまだ知らない事が多いし……どっちにしてもこれから覚えて行くしかないか。
というか……アイツの目当てにしていた賞金首であるヘルロードキャタピラーは俺と増援の人達が仕留めた様なものだ。
変に目を付けられない様にしなきゃな。
「あんなあしらい方をしたらもう絡んで来ないとは思うが、お前も気を付けておけよ」
「ええ」
脳内メモって訳じゃないけど、あのバカ息子とは極力遭遇しない様にと思いながら日替わりディナーに出た魚のフライをアイテムボックスにさりげなく忍ばせてペンギンに献上した。
多分、喜んでくれたはずだ。
「とはいえ、肉屋の所で厄介になってると知られたからにはシャロちゃん関連で絡んで来るかもなー」
「あー……ま、大丈夫じゃね? あのバカ息子じゃな」
「ま、何かあったら相談に乗るから気兼ねなく言ってくれ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ今度こそゆっくりして言ってくださいね」
シャロさんはそう言ってウェイトレスの仕事に戻って行った。
「ねえねえ」
そこで昼間、助太刀に現れた人達が声を掛けてきた。
親しげな女性が俺の肩に手を乗せる。
ちょっと距離が近い!
「中々良い対処方なんじゃない? 是非参考にしたい所だ」
増援のリーダーが拍手をしながら席に座る。
「あんな方法であの人を追い払う事が出来たのね。知らなかったわ」
「真似しても同じような効果は期待できないと思いますよ?」
というか真似されると俺がやったバカ避けを見破られてしまう。
肉屋バリアでどれだけ時間を稼げるかってのもあるけどさ。
「真似したいとは思わないけど、下手に絡まれるくらいならって思っている人はいるんじゃない?」
「あー……そうだな。あのバカに因縁付けられない様にするなら真似するか考えるぞ」
「そんなに厄介なんですか?」
「昼間の件もあるけど、この辺りだとそれなりにね。村で雇用してやってんだからって無理な注文、素材の調達、格安で変な仕事をさせようとしてきたりと散々よ」
「領主もいい加減、我慢も限界が近いっぽいと屋敷の護衛をしてた奴が言ってたな」
「なんか抜本的な改革をして見せるとか大見え切ったとかも聞くし……どうなる事か見物ではある」
なるほど……奴自身も一応、追いこまれつつある訳か。
それこそ、村から飛び出して世界を見て来いという名の縁切りも見えてきたって所なんだろうか?
「それで……まずは自己紹介からしましょうか。僕の名前はマリウスと呼んでくれ」
「リリカよ。彼女たちの力に成ってくれて助かったわ」
最初に増援で来た冒険者の上司二人って感じかな?
手慣れた冒険者って空気を二人は纏っている。
「私の名前はミトラ。呼び捨てで良いわよ」
「俺はシェルテスだ」
「俺っちはカークラット」
って感じで俺を助けてくれた冒険者達は自己紹介を始める。こっちは……まだ垢ぬけていない印象だ。
ミドルネームもあるんだろうけど、そこまではって所かな?
「ヒロと言います。こちらこそ、朝はご迷惑を掛けました」




