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肉屋の関係者

「キュ……ですよね?」


 シャロさんはお見通しの様で、手でくちばしの真似をして悪ふざけをしている。

 当たりですがやめてください。

 たぶん、みんなわかってるんだろうくらいは理解してますから。


「ええ、ムーンライオを採ってきた帰りの朝、事件に遭遇したんですよ」


 苦笑いをしながら答える。


「運が良いのか悪いのかわからないって奴か」

「そうでもないですよ。賞金首を倒したおこぼれをもらえましたし、村の人達とも話が出来ました」

「楽天家で剛運持ちだな、お前」

「気を付けてくださいね」

「あはは……」


 魔物の群れに突っ込んで死にそうになったなんて、いつまでもウジウジしていたらキリが無いでしょ。

 冒険者業をやるならこれから何度も経験する事だしな。

 そもそもLv上げに出かけていた訳だし、あの程度を処理できずこの先を生き残って行けるか怪しいもんだ。

 そんな世間話も程々にコクーンの繭というか外郭を買い取ってもらい、金銭を受け取る。


 当面は武器代の捻出だな……鉄の剣くらいは最低限欲しい。

 賞金でどうにか出来そう。

 解体用の包丁も金属製だけど耐久度や切れ味等、いろんな意味で足りない。

 砥石で研いでおかないと……ちゃんとした生活はその後からだなぁ。

 千里の道も一歩から、がんばって行こう。


「それじゃあまたちょっと出かけてきます」

「いや、待て。もう少ししたら兵士や冒険者共が来る。仕事を手伝え。解体もあるが、お前は商人だったんだろ? 買い取りと販売の両方を頼む。シャロもだぞ」

「はーい」


 シャロさんは当然と言った様子で頷く。


「……わかりました。じゃあすぐ帰ってきます」


 まあ、魔物の討伐に冒険者や兵士達が挙って出かけたんだしなぁ。

 あの辺りの魔物は根こそぎ狩られるだろう。

 色んな意味で賑やかにはなると思う。


「で、どこへ行くんだ?」

「契約相手へのお礼、ですかね。それとムーンライオの売却を先にやっておこうかと」

「ああ……そうだろうな」


 その後、俺は釣竿を片手に海へ行き、釣り上げた魚をガラコロンペンギンに献上しに行ったのだった。

 お前のお陰で色々と助かったぞ。


「キュウウウ!」


 ガラコロンペンギンの方は経験値と魚がどちらももらえて満足そうだった。

 一日で進化したもんな。

 周りのペンギン共も目を丸くして見てるぞ。

 で、ペンギンの巣を後にしてから道具屋にムーンライオを持ち込む。


「な……ムーンライオをどこで採って来たんだよ……昨日契約カードを買ったばかりじゃないか」


 さすがに道具屋も呆れている。


「そりゃあどこで生えているか、貴方なら心当たりがあるでしょう? それと元商人故に秘密です」

「はぁ……こりゃあ一杯食わされたな。状態も完璧だ。買い取り金額に更に色を付けてやる。こんなのこの村にいる冒険者だって出来る奴は稀だってのに……何なんだ、お前は」


 などと言いながらムーンライオの買い取り金額、合計金貨1枚もくれた。

 上級冒険者からすると端金だけど、俺からしたら装備を揃えるのに十分な金銭だ。

 まあ……まずは武器で防具は後で考えるとしよう。

 これだけの金があるなら適当な所で素材を集めて特注した方が良い品を買える。


「それじゃあ俺は肉屋に戻りますね」

「しかも肉屋に帰るのか……お前は本当訳のわからない奴だよ……」


 などとお褒め言葉を受け取って俺は肉屋に戻った。

 その後、予想通り冒険者達が魔物の死体を持ち帰ってきた。

 まあ、冒険者となると魔物を解体して持ってくる者も多いので俺のする仕事は少なかった。

 とはいえ、解体が難しい魔物が持ちこまれると肉屋か俺の仕事となる。


「えーっと……」


 持ち込まれた魔物にシャロさんの笑顔が硬直している。

 即座に肉屋が眉を寄せて冒険者を睨んだ。


「マッドスラッグなんて持ってくるんじゃねえよ! お前は何の素材に使うかわかってんのか!」


 肉屋が冒険者に向かって怒鳴っている。

 えーっと……マッドスラッグというのは泥沼とかに生息する大型のナメクジの魔物だ。

 ナメクジを解体するって事は相応に面倒臭い。


 でだ、臓物の一部が珍味として取引される。他に薬物の材料だ。

 薬物はポーション類の材料になる訳だが……これが手間が掛るし泥臭い。

 確か素材の一部が土系魔法のドーピング効果があるんだったかな?

 契約相手次第じゃ喜ばれる品だ。

 他に魔石が微量に採れる事もあるんだったかな。

 そういう意味で用途の幅はあるが、限定的な印象はある。


 ただ、よく考えてほしい。

 誰がナメクジを解体したい?

 しかも解体難易度は高め。


 冒険者もやりたがらない仕事を双方、元が取れる様に達成するとか。

 ついでって感じで持って来ないでほしい魔物だ。


「そこをなんとか」

「じゃあバラし方を教えてやるからお前がヤレ」


 肉屋がそう言いながら指差すと冒険者が深々と頭を下げた。


「す、すいやせんでしたー!」

「で、ですが、この素材が無いと杖が作れなくて……」


 マッドスタッフ……だったかな?

 土属性と水属性の威力が上がる初級じゃそこそこの杖だったはず。

 多分それが欲しいんだろう。

 同行している魔法使い系の冒険者がおずおずと答える。


「はぁ……割り増しの解体になるが、それで良いか?」


 肉屋が苛立ち交じりに答える。

 それを冒険者が了承した。


「ヒロ、お前マッドスラッグの解体出来るか?」


 えー……俺がやるの?

 まあ知っているけどな。

 どちらかといえば知っているというよりは思い出したって感じだけどさ。


「出来なくはないですけど……」

「じゃあやれ。上手く解体出来たら報酬はお前のもんだ」

「うぇーい」


 やる気の無い声を出しながら、解体を始める。


「がんばって!」


 シャロさんの応援が清涼剤かな。

 と言う所で俺の視界に文字が浮かぶ。


 評価・肉屋の関係者

 効果、解体補正(弱)


 なんだこれは?

 えーっと、ああ……思い出した。

 これはこの辺りに住む人々の俺への認識から来る援護効果だ。

 噂とかを纏めた代物だと思って間違いは無い。


 周りの人々が相手をどう思っているのか……そう言った意識が契約の様に援護効果が働く。

 すると思われた相手に力が増すって訳だ。

 冒険者が信用を重きを置かねばならない理由だ。


 コイツは凄腕の冒険者だぞ、とみんなに思われたら評価・凄腕の冒険者が付く。

 そうなるとステータスに大きな補正が掛るって寸法だ。


 良い事がある半面、悪い所がある。

 例えば、みんなの前で誰かに敗北したとする。

 するとみんなの意識では、コイツは相手よりも弱いと思われる。

 それが一定数蓄積してしまうと、○○よりも弱い、が付いてその相手への戦闘でマイナスの補正が掛ったりするんだ。

 女癖が悪いって評価があったりして、これが付いた場合は性欲が増して全ステータスが落ちたりする。

 なんて評価を冒険者は気にしなければいけない。


 で……今、俺の視界に出たのは肉屋の関係者。

 まあ、確かに肉屋に住み込みで働いているけど関係者じゃないだろう。

 そんな噂が流れているのか?

 とにかく、解体に補正が働くなら利用しない手は無い。


 ちなみにマッドスラッグの解体方法は、まず海水に漬けて泥を洗い流してから十分に水気を絞ってから解体する。

 もちろん、ヌメリを防止するために事前に海水で洗う事が重要なのだ。


 本来は塩で脱水&ヌメリを取る訳だけど、これをしないと素材を上手く分けられない。

 魔石を取るにしてもヌメリで上手く切り分けられない挙句、ヌメリと魔石が混ざって変な反応を起こして魔石の力が失われる。


 ってのを既視感で理解したのでそのまま解体した。

 何度か失敗したけれど先方が納得する分は確保出来た。


 依頼料金を受け取り、次の解体作業に入って……肉屋が閉まる頃には陽が沈んでいた。


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気になる点  冒険者が信用を重きを置かねばならない理由だ。 →信用に
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