魔石
「とりあえずは武器ですかね」
「まあ、アンタがそう言うならそれで良いかも知れねえがな……後で武器屋の奴に相談してみるか」
「お願いします」
「店に来るんですよね? 店長が呼んでましたよ?」
「あ、うん」
店長? お父さんとかじゃないの?
とは思ったけれどシャロさんがササっと行ってしまうので追いかけている内に話す機会を失ってしまった。
それから俺はダブグレイロードキャタピラーとコクーン、ヘルロードキャタピラーの解体を行った。
ロードキャタピラーとコクーンの方は買い取りして貰った。
「運が良かったな。本来なら買い取り値段を下げる所だ」
「あー……大量発生しているみたいですもんね」
「ああ、シャロが随分と心配していたな」
肉屋の店主はシャロさんの方をチラっと見た後、俺を睨みながら呟く。
「心配を掛けました」
「……ふん」
こりゃあしばらくキャタピラーとコクーンは狩っても金銭的には割に合わなそうだなぁ。
狩る魔物を注意しておかないと。
今回は目を瞑ってくれたんだろう。
肉屋は相場で素材を買い取ってくれた。
「金が欲しけりゃ魔石でも持ってこい」
ふと肉屋に言われた事で既視感が反応する。
魔石って言うのはもう少し強い魔物を倒すことで、魔物の体内から得る事が出来る魔力的な物質の事だ。
用途は多岐に渡る。
日常生活で切る事の出来ない品の燃料にもなるのだ。
ランプの燃料にも出来るし、武器や防具の性能をアップさせる事も出来る。
他にも畑に撒けば植物が急速成長して、すぐに収穫できる。
契約相手に献上すれば経験値に還元まで出来る。
当然、純度の低い魔石であろうとも今のバイト生活よりも実入りが良くなる。
冒険者はこれで稼いでいるはずだ。
幾らあっても困らない物資だもんな。
もちろん、ヘルロードキャタピラーには魔石があるはずだけど、ダリアパープルスパイダーに一番良いのは取られてしまった。
まあ、それはしょうがない。
知恵を絞ったけど、実際に動けなくして仕留めたのはあっちだしな。
美味しい所を受け取る権利はあっちにもある。
こっちは魔石の欠片だ。
欠片とは言え馬鹿に出来ない密度は持ってると思うけど。
これも大半は増援に来てくれた人達のリーダーが預かったんだよね。
アレをギルドに持って行って報告してくれるはず。
今の俺はギルドに属していないから代理でやってくれるならあり難い。
それにしても情報が出て来るまで、思い出せないのは不便だな……大事な部分が無いのはわかっていたけどさ。
「これですね」
「持ってるなら買い取るぞ。話によると賞金首を冒険者共と一緒になって倒したんだろ?」
「それは……しっかりと山分けしてからで」
「ふん、義理堅い事だな。持ち逃げすると思ってたぜ」
「あはは……何事も信用第一ですよ」
一応、もぐりの商人って事で通さなきゃいけないしね。
「まったく……魔物を倒しに行くのでしたら誘ってくださっても良かったのに」
シャロさんが当然の様に言い放つ。
え?
肉屋の店主も何言ってんだ? って顔でシャロさんの方を見てるぞ。
「まあ……お前程の腕前ならこの辺りの雑魚なら心配しないが……」
で、店主は俺の方を見る。
えーっと、これは大事な愛娘が分けの分からない馬の骨と仲良く狩りに出ようとしているのを不愉快に思っている、とかだろうか?
誤解を与えない様に手を振って全力で否定する。
「違いますって! そう言うんじゃないです!」
すると今度はシャロさんが不快そうに人差し指を立てる。
ボッとシャロさんの指先から火が出た。
これは……魔法か?
「私も大分貯金が出来て来てますし、良い機会なのでヒロさんがLv上げに出るなら合わせて冒険してみようかなって思ってるだけです」
「ふむ……お前も頑なに契約をせずに仕事をしていたしなー」
「え? 契約なしで魔法を使っているんですか?」
火を出しているシャロさんに目を向ける。
「ええ。私は何故か契約をせずに初期Lvで魔法が使えるんですよ」
「そ、そうなんですか」
凄いな。
魔法資質が生まれつき高いのか、それとも特別な種族出身なんだろうか?
そういえば……なんとなくシャロさんって何か不思議な気配がする。
契約のお陰で魔力を感知できる様になったこそわかる何かとしか言えないけど。
「まったく、お前等そろって似た様な事を言いやがるからよ」
何の事を言っているんだろうか?
主語を教えてくれよ。
とは思ったけれど、初期Lv、契約なしと言う点を考えて、店の魔物と契約をしないと言う所だろうと想像する。
口下手な肉屋の店主に詳しく聞いたら気分を害されるかもしれない。
察する事が出来る範囲ではあまり質問しない方が良いか。
「と言う訳で、私も気の合いそうな子を見繕って地道に鍛錬したいと思っています」
「……そうか」
「今回みたいな事があった際に出られる様にしたいです」
と、親しげに言うシャロさん。
しかし、昨日は行き先が行き先だったからな。
俺一人ならともかく、仲間は連れて行けない。
「えー……さすがに昨夜出かけた所には連れて行けないですね……」
「どこに行っていたんですか? もしかして隣町の風俗に?」
何か凄い事を言い出した。
隣街にそんな物があるのか。
俺の既視感にもない情報だ。
「シャロさん、俺をなんだと思っているんですか……」
色々と注意したい。
そんな下品な男だと思われるのは心外だ。
俺はアイテムボックスからムーンライオを取り出して見せる。
「これは――!?」
さすがに薬屋でも有名になる高額買い取りの薬草だから当然か。
「秘密の生息場所を知っていましてね。昨日は月も丁度よかったので……」
なんて誤魔化しておく。
「……宿でもう泊れるな」
「いえいえ、装備品を買ったらあっという間に底を尽きますよ」
「お前はどんだけ貯め込む気だ?」
あ、呆れられてしまった。
そうは言っても節約出来るならしたいだろう。
宿屋に泊まったからといって、そこまで良い暮らしが出来る訳でもないんだからさ。
尚、騒動の所為で漁は明日に延期になったらしい。
「こんな薬草を取ってくるなんて……命が幾つあっても足りませんよ」
「そこはまあ、色々とね」
よく考えたらとんでもない真似をしてきたと俺自身も思う。
とりあえずこれで最低限装備には余裕が出るはずだ。
契約時に使ったカード代は取り戻して余裕がある。
冒険者に大きく近づいたな。
「言うだけ無駄みたいですね」
「ごめんね」
シャロさんが脱力する。
まあ一緒にLv上げしましょうと誘ったら相手が妙に難易度の高い薬草を採ってきたと聞いたらこうなるのかな?
いくら冒険者志望と言っても、本来は最低限の安全は確保するべきだろう。
ムーンライオは命を使った賭け事だから利口な手段とは言えない。
こんな手を好む冒険者の評価は相応の物になるから、何度もやっていい手段ではないんだ。
「ふん。武器屋がお前に武具をこさえるって言っていたぞ。気に入られたみたいだな。まあ楽しみにしておくんだな」
「ええ」
「ったく……無茶をしやがる。そういや前提を忘れていたが、契約した様だな。道具屋から聞いたぞ。契約初日のヒヨッコがとんでもない物を取って来たな」
この肉屋、一体いつの間に聞いたんだ?
昨日の夕方購入してすぐに契約して出かけたのに。
村の情報伝達の速度に脱帽だ。
まあ、昼休みとかで一時的に店を閉めて昼飯を食いに行って、偶然聞いたのかもしれないけどさ。
ちなみに、何と契約したのかを聞くのはマナー違反だ。
本人が了承したり、契約相手に手を出させない為の念押しだったりする時ならその限りじゃないけど。
契約は言わば力の源。
契約相手が死ぬ事である程度失ってしまう故に、その相手が誰であるかなんて気軽に話す訳にはいかない。
一応……俺自身の上がったLvは確保されるけどさ。
アイテムボックスの中身……要するに財布をどこに閉まっているのか説明する様な物で、そんな場所を態々言う馬鹿はいない。
契約相手と距離が離れさせて、遠くの物を取りよせ、アイテムを入れて出すなんて商売が出来そう……それは無理みたいだ。
物は入れた相手の方に比重があって、無理に取ろうとすると劣化する。
どんな原理かわからないけどさ。




