賞金首
「ゲ! こ、これは……ヘルロードキャタピラーだと!?」
「ダブグレイロードコクーンじゃなかったの?」
急旋回して突撃してくるヘルロードキャタピラーの突進をステップで避けて声の方を見る。
「やっと来てくれたか! コクーンの方はどうにかしたんだが、いきなりヘルロードキャタピラーが襲って来て――」
……増援に来た村の護衛……冒険者か兵士か咄嗟に判断出来ないけれど、見ると心なしか頼りなさそうだ。
少なくとも賞金首を相手にした装備をしている様には見えない。
頼りにして俺は撤退をと考えたが、こりゃあ厳しいぞ。
それは彼等も分かっているのか、身の丈に合わない敵を前に、僅かな迷いが見受けられる。
「大丈夫! ここで引かねば私達は何のために依頼を受けたか分かったもんじゃないわよ! マリウスに託されたじゃない!」
増援のリーダーっぽい女性が仲間達に喝を入れる。
どうやら彼等も誰かに頼まれた様な口調だ。
おそらくヘルロードキャタピラーとの遭遇は彼等のリーダーからしても想定外だろう。
「そ、そうだな! かと言って、今の俺達の装備でどうにかなるのか?」
「そうっスよ! ぶっちゃけ厳しいんじゃないんスか!」
「ヘルロードキャタピラーは攻撃こそ早く、重たいが攻撃の方法がパターン化されている。上手く対応して、連携すればどうにかなるわ! 現に彼もステップだけで攻撃を避けているでしょ? 十分に注意すれば勝てない相手じゃないわ」
おお……リーダーっぽい女性の指示が的確で助かるな。
こっちへ駆けよってくる。
「かと言って……今の私達の装備であの強固な装甲を貫けるか?」
そして徐に弓を引き絞り、矢を放ってヘルロードキャタピラーへ命中させる。
が……矢は、跳ね返されてしまった。
「ともかく、よく時間稼ぎをしてくれたわ! ここからは私達にー……」
「任せて逃げるとヘルロードキャタピラーの習性的に逃げた相手を追い掛けてきますよね?」
「そ、そうね!」
無駄話をしていると、ヘルロードキャタピラーが突撃してきて、俺達は散開して避ける。
「ヒィイイイイイイイイ! ッス!」
あ、一人腰を抜かした!
「バカ! そんな隙を見せちゃダメよ!」
急いで女性が腰を抜かした冒険者を立たせる。
このままじゃ轢かれる!
……しょうがない。
「こっちだこっちだ!」
俺が挑発交じりに石をヘルロードキャタピラーに投げつけてから背中を見せて走る。
「キュイイイイイイイイイイイ!」
本能に逆らえずヘルロードキャタピラーは俺の方に狙いを定めた。
よし!
タイミングを練ってダッシュとステップで避けつつ、剣を当てる。
やっぱりガツンと音がするだけでダメージが入らない。
「こっちだ! はぁあああああああああ!」
女性が仲間を立たせてから俺の後を追いかけ、ヘルロードキャタピラーが旋回する隙を利用して、持っている剣で斬りつける。
多少、良い物を使っている印象だ。
ガツッとヘルロードキャタピラーの棘が僅かに削れた様に見える。
「く……攻撃力不足ね。私がコレだとこのメンバーじゃダメージを入れられるか怪しいわ」
それでも削れた分だけまだマシだが……。
「一つ、手があります」
「なに?」
リーダーの女性に向けて不敵な笑みで俺は答える。
「ヘルロードキャタピラーは確かに強固な装甲と棘を持っていますが、腹部が柔らかいのはそのまま……上手く走れない様にして露出させればここに居る者達だけでも倒す事は出来ます」
「言うのは簡単だけど、それを実現する方法はあるの?」
「正攻法だと、防御を固めた者が攻撃を受け止めて押さえつけた所を攻撃すれば倒せるはず。もしくは岩壁等の壁にぶつけさせるのがセオリーですね」
「ここは草原よ!」
「そうッス! そんな壁も、耐えられる奴も……」
と言う所で、増援の中に居る屈強そうな男にみんなの目が行く。
ただ、屈強そうな男は首を横に振る。
「無茶言うな! Lvも装備も契約相手も足りない! あんなの受け止めたら俺が弾き潰されちまう!」
そこまでの実力者じゃないか。
「なら後は奥の手……あそこに森が見えますよね?」
「ええ」
「あそこに逃げ込みます。俺の予測が正しければ、上手くすれば腹を露出させられるはずです」
「何か作戦があるって事ね?」
「はい」
と言う所でリーダーの女性が頷いて森へ駆けだす。
俺も合わせる。
「あの賞金首が人語を理解している可能性がある。どうせ手立てがないんだ。カークラット! 貴方はマリウス達を呼んで来て! 私達は彼の作戦に乗って時間を稼ぐ!」
「わ、わかったっス!」
「今行っちゃダメだから! 背中を見せて走ると追いかけてくる!」
「承知したっス!」
ヘルロードキャタピラーの注意を俺とリーダーが引き受けつつ、森へと逃げ込む。
ある程度離れたのを確認してからリーダーの女性の指示に頷いた者が村の方へと駆け出して行くのが視界の隅でチラッと見えた。
で、屈強な男にも時々ヘルロードキャタピラーが狙ってくる様になった。
コイツ……俺達に決定打が無い事を察したのか攻撃が苛烈になって来ている。
少なくとも先ほどよりも旋回時の丁寧さが無い。
ごり押しをして来ているな。
森に入った所で辺りを確認する。
うん、思ったよりも深い森みたいだな。
「で、作戦は?」
「もともと湿っぽい森みたいだし、ある程度大丈夫だと思いますが水系の魔法や技能でアイツの放つ炎を消せるなら消してください」
俺は狙いを定めて、アクアショットを意識する。
魔法の類は発動させる事は簡単だけど修練が足りないと威力が大きく下がる。
詠唱無しでも使えるけど、出来るなら唱えた方が威力が上がる。
だけど、今の俺に魔法の詠唱なんて心得は無い。
「アクアショット!」
元々湿っぽい森の中、ヘルロードキャタピラーが僅かに纏う炎は威力を弱め、俺の水を浴びて更に消えていく。
若干水蒸気が出てるけど……うん、森を燃やすほどの炎じゃない。
これなら……どうにかなるはず!
「わかった! アクアブラスト!」
リーダーの女性が魔法で水の塊を出して放った。
「わりぃ! その手の技能持ってない」
「水筒の水を掛ける程度でも良いから! ヘルロードキャタピラーの進む先にばらまくだけでもしてくれ!」
屈強な男は携帯していた水筒の水をばら撒いて、ヘルロードキャタピラーの炎を消すのに貢献する。
「で、どうするの?」
リーダーの女性が俺に尋ねる。
俺は辺りを見渡し……目当ての物を発見して笑みを浮かべる。
しかも運の良い所にある。
「こっちだこっちだ!」
背中を見せて、のろのろと走って誘導する……遅く走らざるを得ない物が転がってるんだけどさ。
ヘルロードキャタピラーは装備の関係で、一番弱いのは俺だと見抜いていたのだろう。
アッサリと俺の挑発に乗って追い掛けて来た。
しかも出来る限りの距離を稼いで加速して、ステップですら避けられない様にするつもりだ。
「そんな背中を見せていたら避ける事すら出来ないわよ! しかもその先は――」
リーダーの女性の制止を無視して俺は、目当ての場所に駆け出す。
「ギュイイイイイイイイイイイイイイイ!」
必殺の勢いだとばかりにヘルロードキャタピラーは俺に向かって最高速度で突進してくる。
俺は注意深く足場を確認しながら全力で走り、ダッシュを併用……スタミナが続く限り走ってから……スライディングをして……潜り抜けた。
「ギュウウウ――!?」
念の為に更にダイブ! ゲーム風に言うなら緊急ダイブだ。
ゲームなら一定時間無敵だろうけど、現実ではそんな現象が起こらない。
ブチブチっと一部が引きちぎれる音が響く。
けど……それ以上は行かなかったみたいだ。




