ヘルロードキャタピラー
「応援はまだ時間が掛るのか?」
村に帰ったら、『ふぅーバカっぽい奴に擦りつけて助かったー』とか言いながら何も救援を呼んでない、なんて事になっていないと祈ろう。
いい加減、俺だけで掃討出来るんじゃないかと思えてきたぞ。
という所で痺れを切らした突撃する一匹をバットの要領で、スラッシュで跳ね飛ばしてヒビが入った奴にぶち当てる。
もう撤退するか?
注意しながら逃げれば……三匹だし、どうにかなるだろう。
村まで連れてってやるよ!
と言う所で、旋回していた一匹が、俺が弱らせたコクーンに突撃した。
「な、何!?」
しかもヒビが入った一匹まで追い打ちを掛ける始末。
仲間割れ? いや、種族的に仲間意識は無い魔物だ。
……そう思っていると、嫌な汗が背中を伝う。
ドックン……ドックン……生き残ったコクーンが脈動を強め、赤く発光し始める。
と、同時にこっちも経験値が僅かに入ってLvアップした感覚がした。
良いタイミングではあるんだけど……。
「羽化しかかっていたから同種を仕留めて経験値を奪ったのか!?」
くっそ!
させてなるものかと思い切り剣を振りかぶるが、疲労もあって出遅れた。
ガツッと大きく殴りつける事は出来たけどスラッシュを放つ力は無い。
呼吸を整えないと……。
致命傷は程遠く、コクーンが赤く光を放ちながら姿を変える。
ダブグレイジェットバタフライ……コクーンの上位にして高速で空を飛ぶ厄介な魔物だ。
角を持った飛行機みたいな羽を持つ蝶の魔物だ。
コクーンから羽化するのには別の進化とも呼べるパターンがあって、そっちはダブグレイジェットモスと言う。
こっちは速度は遅いけど、毒のリンプンをばらまく。
バタフライの方は下手をすれば生半可な鳥の魔物よりも厄介なくらい、動きが早い。
ホバリングが苦手だが、魔力や樹液等を燃料に直線を高速で移動する。
防御力は低下しているけど、今の俺の手に余る魔物だ。
まだモスの方が対処しやすかった。
「キイイイイ……」
繭から姿を露わしたダブグレイジェットバタフライは今までの鬱憤を晴らすべく、俺に向かって敵意ある目を向けている。
本来は手を出さなければ、あちらから人間を攻撃してくる事は無い魔物だけど、既に俺と敵対済み……。
手元にはコクーンを突きさしたままの折れた剣。
これと言った武器は無く、コクーンの死体程度を盾にしてもダブグレイジェットバタフライの突進は止められない。
逃げるのは難しいか……何か、何か無いか!
……あった。
オリーブグリーンティラノの排泄物をアイテムボックスに少量入れてある。
投げれば匂いで脅えてくれるかもしれない。
という所で、俺への殺意を向けていたダブグレイジェットバタフライに……巨大なタイヤが土煙りを上げて横切り、引き潰した。
「な、何!?」
巨大なタイヤの方を凝視する。
回転を一旦辞めて、そのタイヤは丸まっていた姿を解除する。
俺はそこで背筋が凍りついた。
「ヘルロードキャタピラー……」
ダブグレイロードキャタピラーは通常ではコクーンへと進化し、ジェットバタフライかジェットモスに至る。
だが、稀に環境が整っていたり、契約をして育成される個体が亜種への変化をする事がある。
芋虫のまま、亜種であるニードルロードキャタピラーへ、ニードルロードキャタピラーからポイズンニードルキャタピラー……ここのポイズンは他にもいろんな種類があるが省略するが、その先にあるのがヘルロードキャタピラーだ。
少なくともこの村近隣で生息して良い魔物では無い。
場違いな場所に生息する魔物を役場……国は賞金首と認定して賞金を懸けて冒険者や兵士等に狩らせて治安維持を図ろうとする。
確かヘルロードキャタピラーを倒すのに必要なLvは……元々が弱いので進化も早い。
その分……ヘルロードコクーン、ヘルジェットバタフライへ至る経験値が膨大になるが……至ったら大きさも規格外に大きくなる。
まあ、別種の進化もする可能性が高く、ヘルマッハコロペンドラになると硬い、速い、鋭いの三拍子の厄介な魔物に成る事受け合いだけどさ。
今、俺の目の前に居るヘルロードキャタピラー……大きさは大型トラックとかの大型タイヤ。
無数の棘が生えていて、ヘル故に若干火属性所持。
現に走った部分が僅かに燃えている。
今の俺には勝てる見込みは殆ど無いと言っても過言じゃないけど……。
「ギィ……」
ヘルロードキャタピラーは俺に狙いを絞って居る。
逃げるのは……難しいだろうな。跳ね飛ばす気で追い掛けて来るトラックから走って逃げる様なもんだ。
しかもトラックよりも小回りが効くと来たものだ。更にこの魔物は炎を纏う所為で匂いに対して鈍感だ。
排泄物での威嚇も効果が薄い。
ヘルロードキャタピラーは即座に丸まり、まるで車がエンジンを吹かす様に地面で摩擦を起こして火を宿す。
しかも太い針を出して、間違いなく俺を轢き殺す気だな。
大型トラックのタイヤみたいな魔物が、スタートダッシュを図るかの如くゴウゴウと地面を削る音を立てながら、今にも突撃してきそうだ。
逃げる獲物を追い掛けて轢き殺すって性質があるんだったかな?
もちろん、それ以外の攻撃性もある訳だけど。
ともかく、こんな魔物が縄張りから出て来るような事を起こしたバカって奴に色々とぶっとばしてやりたくなる。
「ギュイイイイインン!」
回転音みたいな鳴き声を放ちながらヘルロードキャタピラーは俺に向かって突撃してきた。
「おわ!」
全身を使って前のめりジャンプをして軸をずらし、紙一重で回避する。
直ぐに体制を立て直せ! じゃなきゃ轢き殺されるぞ!
ヘルロードキャタピラーが大きく周回して来る間に俺は状況を分析する。
どうにかしてこの状況を打開しないといけない。
俺自身が生き残るために。
一応、増援が来てくれるはずだが……何か無いかと自身のステータスを確認する。
中藤洋 Lv6 ガラコロンペンギン Lv1
ガラコロンペンギン Lv1 9%
特性 水中適正(中) 船上戦闘技能1 ???の眷属
技能 スラッシュ ステップ ダッシュ アクアショット
お? 思ったよりも経験値が入ってる!
しかも必要経験値を満たしたお陰であのコロンペンギンが進化しているな!
元が子供みたいなものだから必要経験値が少なくて済んだか。
スラッシュを何度も使用した影響か、それともコロンペンギンのLvが上がったお陰かステップまで出ている。
ステップは瞬間的に意図した方向へ高速移動が出来る技能だ。
ステップをした直後にスラッシュを放つと威力が上がる。
やはりコロンペンギンと契約して良かった。
近隣の交渉出来そうな魔物の中では、良い技能が出る。
ただ、進化したと言っても……ヘルロードキャタピラーを正面から挑んで勝てるほど、即効性の強さは無い。
そもそも俺自身の強さが影響する訳で、手持ちの武器を加味すると勝てる見込みの方が少ないぞ。
とはいえ……予想よりも俺自身のLvが上がっている。
上手くすれば、時間稼ぎは出来るかもしれない。
旋回してきたヘルロードキャタピラーに向かって俺は駆け出し、突撃を見切りながら斜めにステップ!
ステップはその文字の通り、思った位置に向かって瞬間的に移動できる技能だ。
その速度は最高速のヘルロードキャタピラーよりも若干速い。
「ギィイイイ!?」
突然俺の姿が掻き消えたかのようにヘルロードキャタピラーは声を上げる。
「ついでにコレだ!」
ダッシュで背後を追い掛けてスラッシュでダブグレイロードコクーンが付きの折れた剣で殴り飛ばす。
ガンと硬すぎる音が響く。
「つー……やっぱ攻撃は入らないかー」
手が物凄く痛い。
捻ったかと思った。
やっぱ今の俺じゃヘルロードキャタピラーの固い外殻を壊すなんて出来ないか。
そもそも必要Lvとか全てにおいて足りない。
適性で倒せるLvだったとしても仲間を集めて手堅く仕留めるべき相手だ。
賞金首なんだろうしな。
他に何か無いか!
近くには森……若干既視感があると言っても見知らぬ地域。
しかも逃げ込むには博打が過ぎるし、スタミナや技等を使う余裕もそこまで無い。
かと言って、逃げる事は難しい。
援軍の到着も期待は出来ない。
ここでふと……この辺りでの出来事が思い出される。
うん……若干一か八かになるが、やってやれない事は無い!
「大丈夫か!?」
声の方角を見ると、弓矢を構えた村の護衛……がちょうど駆けつけたところだった。
これは幸運! 増援が駆けつけてくれた!




