ダブグレイロードコクーン
「あー……疲れた。死ぬかと思った。けど……ふふ、良い収穫になったな」
ムーンライオをアイテムボックスにぶち込んで途中の川辺で匂いを取り、たき火で軽く体を温めてから帰還の為に村の方へ歩いて行く。
一応、この辺りにも魔物が出て来るが注意して居ればどうにかなる。
さて……草原を抜けて村へ、と言う所で、ドカドカと鉱山方面から荷車が土煙りを上げて走ってくるのが見えた。
「わ、わ、わああああ!」
荷車を運転しているのは村の武器屋に出入りしている商人と村出身の炭鉱夫だったはずの人だ。
「ちょ! そこの人! 急いで逃げろ!」
荷車の後方を見るとダブグレイロードコクーンの群れが高速で荷車を追走している光景だ。
「魔物引き連れて何してるんですか!?」
咄嗟に尋ねる。もちろん、急いで並走して、荷車に飛び乗った形だ。
契約万歳、して無かったら大急ぎで逃げていた所だ。
おそらく、俺を追って来なかっただろうし。
すると商人と炭鉱夫は焦った表情で答えた。
「鉱山で馬鹿が魔物の巣を刺激しやがってな。そのとばっちりで追われてんだ。ったく、朝っぱらからとんでもねえ!」
どんなバカだ!
周りに被害を増大させてんじゃねえか。
……なんか、記憶のどこかで嫌な感覚が支配してくる。
昨夜の奴等か?
あの時注意しておいた方が良かったのだろうか?
いや、注意して絡まれたら嫌だ。
「戦って倒せば良いのでは?」
少なくとも駆け出し以下の俺よりも村人とかの方がまだ強いはずだ。
「数が多過ぎてな。しかも賞金首相手に国の兵士と見習いに武器を渡して逃げて来たんだ。が……手元に残りの武器が無くてよ。予備も折れちまった」
ダブグレイロードコクーン相手にどんな武器を振りかざして攻撃したんだ?
ともかく、荷車で逃げたって所か……。
「魔法で仕留めはしたが魔力が尽きた……これでも数は減った方だ」
「村に連絡が行ってるとは思う。すぐに冒険者や兵士共が駆けつけると思うが……」
なるほどな。
ったく、オンラインゲームのモンスタートレインじゃないんだぞ。
とはいえ、余計な被害を出さない様に爆走中って言うのは理解出来た。
かと言って走らせるのもそろそろ限界だろうな。馬の呼吸が荒い。
ダブグレイロードコクーンもいい加減、諦めろよ。
……なんとなくあっちも疲労で速度が落ちてる様に見えるけどさ。
荷車の積み荷を見る。
鉱石とかが大半みたいだけど……逃げる途中で捨てていたのか大分少ない。
商人共もアイテムボックスに満載しているだろうから、その残りだろうけどさ。
刀身が半分の所で折れた剣が転がっている。
戦って折れたのを持ってきたって所かな?
少なくとも……俺の持っている解体用の中古包丁よりは切れ味がまだあるはず。
まだ武器があるのに逃げとか……そこまで警戒する魔物じゃない。
「ちょっとこれ、貸してくれませんか?」
「あ? それで何をする気だ?」
どうせゴミだろうからと折れた剣に手を伸ばす。
「じゃあ少しだけ時間を稼ぐので増援をお願いします。俺の指示に従って方向転換をしてください」
「あ、おい!」
弱っているのならチャンスだ。
上手く行けば人助けが出来て、更に経験値の上前を撥ねられる。
「じゃあ行きますよ。3、2、1!」
アイテムボックスに転がしてあったダブグレイロードキャタピラーの死体をばら撒き、通行を阻害した。
「「――!?」」
まあ、わかりやすく言うと走行中の車の前方に突然、大きな出っ張りが出来た様なもんだ。
ダブグレイロードキャタピラーの死骸を踏みつぶして大きく跳躍したダブグレイロードコクーン達が、空中に投げだされる。
「今だ!」
荷車に乗っていた連中がその動作を見て唖然とすると同時に、大きく曲がり、村の方へ曲がる。
その僅かな減速をした際に俺も飛び降りた。
ドスっと着地音と共にダブグレイロードコクーン達は大きく旋回する。
さーて……ここで俺と荷車、どっちに注意が向くかな?
「おー……読み通りで結構」
怒りの矛先を俺に変えたダブグレイロードコクーンの群れは俺を取り囲むように旋回している。
辺りを確認……森の近くだな。
さーて……増援が来るまでの間、どれだけ戦えて時間を稼げる事やら。
折れた剣を片手に構える。
前にダブグレイロードコクーンの生態は既視感と共に知る事が出来ている。
一部キャタピラーと同様の弱点も健在だけど、厄介なのは変わらないか。
タイヤの回転音みたいな音を立てて一匹のダブグレイロードコクーンが突撃してくる。
疲労もあるだろうけど、まだ速度は健在……むしろ休ませない方がいいな。
「スラッシュ!」
ガツっとバットのスイングする要領でスラッシュを放つ。
「うお!」
僅かに剣がダブグレイロードコクーンを切り裂いたけど、そこまでだった。
突進を殺し切れずに大きく弾かれてしまった。
幸いな事に剣を放さずには済んだけど、やっぱこの程度じゃ致命傷は程遠いか。
うーん……勢いを付ければ僅かに傷を負わせられるけど致命傷は無理……しかも飛び出した奴に釣られて次々と俺目掛けて突進してくるもんな。
「くっ!」
早さの補正でどうにか対処出来る速度だけど、当たったらシャレにならない事になりそう。
「うお!」
「!?」
突進してきたダブグレイロードコクーンに向かって手を向けて、アイテムボックスからロードキャタピラーの死骸を出現させる。
するとキャタピラーの死骸に当たってコクーンは跳ねかえり大きくバウンドする。
「!?!?!?」
思いもよらない防御方法に驚いたって様子で、混乱している。
「簡単に倒せると思うなよ?」
どうしても避けられ無さそうだったらとキャタピラーの死体を出現させて盾代わりに距離を取る。
が、同じ手がそう何度も通じるはずもない。
キャタピラーの死体を跳ね飛ばして、コクーン達は俺目掛けて突撃してきた。
距離があっという間に詰められるな。
「だが、甘いぞ?」
バッと屈んだ所で、コクーン同士で衝突を始める。
この系統の魔物達は数で来る時こそ、攻撃のチャンス。
「「――!!!」」
同種同士でぶつかり合い、跳ねて行く。
とはいえ、コクーン同士がぶつかっても大きなダメージを受けないくらいの頑丈さを持っているのがキャタピラーの上位である証拠だ。
だが、俺は一匹のコクーンに狙いを定める。
調度同種同士でぶつかり、俺の攻撃で繭にダメージが入っていた所為もあって亀裂が大きくなる。
「おりゃあああ!」
折れた剣の先をその亀裂に差し込み地面に全体重を掛けて押しつける。
「――!?」
ズブっと折れた剣が深々と突き刺さり、ダブグレイロードコクーンの中身を貫いた。
すると手ごたえが無くなり、絶命した事を悟る。
ふと、俺の視界にLvアップの文字が浮かんでいたが、今は気にしている暇は無い。
「よし! まずは一匹!」
突き刺したまま剣を持ちあげ、再突撃をしようとしているコクーンの一匹へスラッシュを放つ。
もちろん……突き刺したコクーンを当てるようにな?
ヒビが入って居ても、硬さはあるし、スラッシュの勢いもある。
疑似的な付与状態だ。
大きなダメージを受けないだけで、無傷ってわけでもないし、二度目の殴打で、二匹目の繭に大きくヒビが入った。
しかも不運な事に俺を狙って突進してきた奴に跳ねられ、砕けながら宙を再度舞った……うん。絶命してしまったっぽい。
「!?」
「あー……」
勿体ない。繭を後で何かに利用できないか肉屋と相談してみるか。
最悪、洗浄して上着にでも縫いつけよう。
ってな感じで上手く立ちまわれたは良かったのだけど、徐々にコクーンの数が減って来ると、自然と同士討ちを狙えなくなる。
「はぁ……はぁ……」
幾ら契約をして少し強くなったからと言って限度って物はある。
残っているコクーンは四匹。
内二匹はヒビが入っていて、残り二匹は旋回して速度を上げている。




