44 第二王子が伝えたいこと ②
さすがに話せる状態ではなかったので、持っていた腹痛の薬をレイティン殿下の付き人に頼んで、彼に渡してもらった。
薬を飲むといつもなら治るらしいのだけど、今回は効く気配がなかった。ということは、シイちゃんがそれだけ怒っているということだと思う。
お手洗いから中々出てこないので、私はシモンズと共に薬作りを再開した。
いつもの癖で自分で鍋をかき混ぜていると、水面に笑っている人間の顔が浮かんできたので、慌ててかき消してシモンズに任せた。
レイティン殿下の付き人や、エレスティーナ様の侍女たちは鍋の中身が見えるほど近くにいるわけではないので助かった。
あの笑顔を見たシモンズが小声で言う。
「ホラーだったな」
「あの笑顔が出た時は効果がスペシャルに良いやつなのよ。だから、いつもならラッキーなんだけどね」
「俺がかき混ぜた時点で台無しだな」
そう言いつつも、シモンズは思っていた以上に丁寧に鍋をかき混ぜてくれた。思っていたよりも繊細な部分があるのかもしれない。
レイティン殿下が「痛い、痛い」と呻いている間に一通りの工程が終わった。薬を冷ましてから小瓶に移し替えている時にやっと、レイティン殿下がお手洗いから出てきた。
「人が苦しんでいるのに、何を呑気に薬作りをしているんだよ!」
「それは申し訳ございません。ただ、何もせずに待つよりかはいいと思いました」
「なんて冷たい女なんだ」
彼は私の所にやって来て文句を言うと、耳元で囁く。
「今回の小競り合いが開戦するきっかけになったら、ミリル、お前のせいだからな」
「意味がわかりません。どうして、私のせいになるんですか」
「今回の件は、お前をフラル王国に戻すために考えられたことだからだ」
「……はい?」
聞き返すと、レイティン殿下は嬉しそうな顔をする。
「やっと僕を見たな。少しは興味を持ってくれたのか?」
「何をおっしゃりたいのかわかりませんので、はっきり言っていただけませんか」
「その薬を持って戦場に行くんだろう?」
にやりと笑ったレイティン殿下を見た時、彼が言おうとしていることや、考えていることがわかった気がして、私は笑顔で否定する。
「いいえ。私は戦場に行きません。混乱に乗じて誘拐でもされたら困りますから」
「えっ!?」
レイティン殿下は嘘をつけない人間らしい。普通ならばしらばっくれるところを普通に反応してしまっている。まあ、第二王子だし、こんな人でも何とかなるか。
「で、でも、この薬はどうするんだ?」
「必要になるまでどこかに保管しておきます。必要になったら兵士が取りに来てくれるでしょう」
口をパクパクさせるだけで、言葉を発しないレイティン殿下から、シモンズのほうに体を向ける。
「作り終えたし、出来上がったものを木箱に入れて宿に戻りましょう」
「承知いたしました」
レイティン殿下の前だからか、シモンズは敬語を使って軽く一礼すると、出来上がった薬の小瓶を木箱に詰め始めたのだった。




