43 第二王子が伝えたいこと ①
「久しぶりだな。会いに来てやったぞ」
騎士をかき分けるようにして現れたレイティン殿下は私を見てにやりと笑った。
「お久しぶりでございます。レイティン殿下にお会いできて光栄です」
腹痛は治りましたか、と聞きたい気持ちが一瞬だけ浮かんだが、聞くのはやめておいた。
「そうだろう。忙しい中、わざわざ足を運んでやったんだ。感謝しろよ」
胸の前で腕を組んで笑うレイティン殿下に、私は微笑む。
「お忙しい中、足を運んでいただきありがとうございました。お時間を取らせるわけにはいきませんので、これで失礼いたします」
私は深く頭を下げたあと、笑顔でゆっくりと扉を閉めた。
「お、おい!」
レイティン殿下の焦った声が聞こえてきたが、気にせずに、シモンズの所に戻る私をエレスティーナ様の侍女たちは驚いた顔をして見つめている。
普通の令嬢は王子相手にこんな対応をしないのでしょう。
……それもそうか。でも、ポーチの中のシイちゃんはそれでいいといった様子で飛び跳ねているから良しとすることにした。
隣に立つと、さすがのシモンズも心配そうに小声で尋ねてくる。
「おい。そんな態度をとって大丈夫なのか? 相手は第二王子だぞ」
「忙しいって自分で言っているんだもの。早く帰らせてあげるのは優しさでしょう?」
「……まったく。ミリルだからできることだな」
シモンズが扉に向かって歩き出すと、レイティン殿下の声が聞こえてきた。
「そんな態度をとっていいと思っているのか! 不敬罪でっ……ああ! 痛いっ! 腹痛がっ! なんでこんな時にっ!」
「殿下! 大丈夫ですか!?」
一気に外が騒がしくなった。シイちゃんが起こした腹痛だろうけど、さすがにお手洗いを貸してあげないと駄目かと思った時、レイティン殿下の声が聞こえてきた。
「こ、今回は帰るっ! ううっ、だ、だが、話を聞かないと、後悔することになるからな!」
そんなことを言われたら気になる。あとでやっぱり聞かせてくださいとお願いするのは嫌だし、私は覚悟を決めて、扉近くにいるシモンズに叫ぶ。
「シモンズ、お手洗いを貸すわ! 扉を開けてくれない?」
「わかった」
シモンズが扉を開けると、レイティン殿下が中に駆け込んできた。
「お手洗いはどこだ!? 早く教えろ!」
レイティン殿下の必死の形相を見た、エレスティーナ様の侍女たちは、目を瞬かせながら、一斉に同じ方向を手で示した。
お手洗いに駆け込んだ彼の後を追い、私は扉越しに話しかける。
「で、話したいこととはなんでしょうか」
「腹痛でそれどころじゃないだろ。嬢ちゃんはたまに鬼だな」
シモンズの呆れた声が背後から聞こえてきたけれど、一切気にしないことにした。




