42 第二王子のアプローチ
私が薬を作り始めると、エレスティーナ様は三人いる侍女のうち、二人をここに残してどこかへ行ってしまった。
もしかしたら、私のさっきの態度を伝えるために、リディアスの所に行ったのかもしれない。人の考え方は違うものだけど、間違ったことを言ったとは思っていない。
それにこの忙しい時に、現場に行くほうが迷惑ってものよね!
原液だと効き目が強すぎるのと多くの人に飲んでもらうことができない。効果は薄れても水を入れてかさ増しする。鍋に水を入れ、シモンズに火を点けてもらい薬草の原液を入れる。
一瞬、どす黒い色に変わったが、すぐにシモンズがかき混ぜてくれたおかげで、普通の色に戻った。
「シモンズ、ありがとう」
「どういたしまして。それにしても、女の戦いってのは怖いねぇ」
「そう? あんなものだと思うけど」
エレスティーナ様の侍女たちの視線を感じたので小声で答えると、シモンズも声のトーンを低くして話す。
「男は決闘で、女は舌戦といったところか」
「シモンズはそういうのに巻き込まれたことはないの?」
シモンズは言葉遣いは悪いが、辺境伯家の騎士隊長であり、体格も良いし顔も整っている。無精髭が気になる人は駄目かもしれないが、似合っていると思うし、若い頃は特にモテていたんじゃないかと思った。
「特にねぇなぁ。リディアスみたいにキラキラした男前でもないから、取り合うような状況にはならない」
「そう? シモンズの顔、私はワイルドで好きよ」
「それ、リディアスの前では言うなよ」
シモンズが鍋を乱暴にかき回しながら苦笑した。
「大丈夫よ。それに剣の腕はシモンズのほうが上なんだから怖くないでしょう?」
「怖い、怖くないとかいう問題じゃなくて面倒なんだ」
「そうか。そうよね」
リディアスは両想いになったとわかった時から、独占欲が強くなった。束縛はしてこないので、私としては可愛らしく思っている。嫉妬させないようにするのが一番だけど、自分にそんな気はなくても寄ってきてほしくない相手から近づいてくる時もある。
今回もそうだった。
シモンズが眉根を寄せて、かき混ぜる手を止めたので尋ねる。
「どうかしたの?」
「来客だ。殺気はないようだが、複数人だ」
「なんなの?」
鍋の火を止めて出入り口の扉を見つめた時、ノックの音がした。
エレスティーナ様の侍女が警戒しながらも応対する。
「どちら様でしょうか」
「フラル王国のレイティン殿下だ。扉を開けろ」
騎士らしき男性の声が返ってきて、私は大きなため息を吐いた。
「ミリルはもてるねぇ」
「私に会いに来たかはわからないでしょ」
「ミリル! いるのか?」
中の声が聞こえているのかと思うくらいのタイミングでレイティン殿下が私を呼んだ。
一体、私に何の用なの?
「やっぱりそうじゃねぇか」
「面白がるのはやめてよ」
茶化してくるシモンズを一睨みしてから、戸惑っている侍女の代わりに、私が扉を開けたのだった。




