41 王女からの宣戦布告
「エレスティーナ殿下になんて無礼なことを! あなたも薬師なら、エレスティーナ殿下の功績は知っているでしょう!」
エレスティーナ様の侍女が、ヒステリックな声を上げた。
「それは存じ上げております」
正確に言えば彼女の功績ではなく、多くの薬師たちのものだと思うけれど、さすがに正直に答えることはやめておいた。すると、侍女は目を吊り上げて叫ぶ。
「ならどうして、そんなことが言えるのです? 現地に行くなんて危険すぎるでしょう!」
「そうです。ですから、自分にできることをするしかないと思っています。私が現地に行っても足手まといになるというよりか邪魔なだけです。それなら、ここで薬を作ることが国のためになるはずです」
「私はリディアスが心配じゃないかと聞いたのよ?」
黙っていたエレスティーナ様が会話に割って入ってきたので、体を向けて答える。
「心配です。でも、そう思っているのは私だけではありません。母も辺境伯家の使用人もみんな同じ気持ちです。すぐ近くにいないからといって心配していないなんてことはありません。今は、それぞれができることをやれば良いと思っています」
相手は王女陛下だ。それなのに物怖じしないのは、やはり私にも王族の血が流れているからだろうか。もしくは、ポーチの中でシイちゃんが応援してくれているからだろうか。
無言でエレスティーナ様を見つめていると、彼女は表情を緩め、口元に笑みを浮かべる。
「リディアスは情であなたを好きになったのかと思ったけれど、そうではなさそうね」
「ありがとうございます」
褒められたのかどうかわからなかったが、咄嗟に出てきた言葉がそれだった。すると、エレスティーナ様は声を上げて笑った。
「ふふふ。ミリル、私の本当の目的はあなたをロードブル王国に迎え入れるつもりだった」
「私を? それは、どうしてですか?」
トボけて聞いてみると、エレスティーナ様は口を開く。
「あなたが世界的にも有名な薬師の唯一の弟子だから」
侍女たちの前だからか、エレスティーナ様は私がフラル王国の元第四王女であり、不思議な薬を作っている人物だと口にすることはなかった。
そのことに感謝しつつ尋ねる。
「今の目的は違うのですか?」
「そうよ。あなたがほしいことは確かだけど、それよりもほしいものができたの」
エレスティーナ様は頷き、たっぷりと間を置いてから宣言する。
「私はリディアスが好き。彼は生まれつき人を魅了する力があるのかもしれない。だから、余計に彼がほしい。権力で奪うのではなく、私の魅力で彼を自分のものにしてみせるわ」
「私もリディアスが好きです。私は私なりに頑張りますので、お互いに頑張りましょう!」
頭を下げてからエレスティーナ様に微笑みかけると、なぜか呆れたような顔で私を見つめていた。
さあ、無駄話はこれで終わり。
「薬作りにかからせてもらいます。シモンズ、手伝ってちょうだい!」
「任せろ」
シモンズと私はまだ何か言いたげにしていたエレスティーナ様をそのままにして、薬作りを開始したのだった。




