37 焦る恋人 ➂
「どうしてここにミリルがいるんだよ!?」
リディアスは驚いた顔をして私に近づいてきた。
「リディアスやお父様から手紙の返事がこないから気になって来たのよ」
「悪い。忙しかったんだ」
エレスティーナ様と話す隙はあるのに? と言いたくなったけど、私も疲れていたら部屋に戻るとすぐに寝ちゃうし、そんなものなのかなと思い直した。
あ、でも、今の気持ちは嫉妬なのかも。ちょっと可愛く拗ねた感じで言ってみたらどうだろう。意地悪してやろうと思って口を開こうとすると「会えて嬉しい」と言ってリディアスが抱きしめてきた。
「うわあああっ!?」
驚いて声を上げると「いや、もうちょっと可愛らしい照れ方をしろよ」とリディアスは笑う。
「ご、ごめん」
どう反応したら良いのかわからなくてポンポンと背中を叩く。抱きしめ返せば良かったのだけど、人前だから恥ずかしくてできなかった。
そんな私の様子などおかまいなしに、リディアスは照れる様子もなく私の頬に自分の頬を寄せた。
「元気そうで良かった。浮気してないだろうな?」
「し、してない!」
こ、恋人同士の再会ってこんなものなの!?
パニックになっていた時、リディアスと私の体に挟まれたポーチの中のシイちゃんがもぞもぞと動いた。
「そ、そうだ。シイちゃん」
取り出そうかと思ったけれど、エレスティーナ様の目の前で出すのは嫌だった。食堂で男女が抱き合っているのは目立つし、他の人の邪魔になる。シイちゃんも光ったり飛び跳ねたりできないから、場所を移動することにした。
「リディアス、ちょっと場所を移動しない?」
「かまわないが、王女殿下には挨拶しておいたほうがいいだろ」
リディアスは私から身を離すと苦笑して言った。
気づかないふりをしていたかったが無理だった。まあ、それはそうよね。王女殿下への挨拶は、たとえ他国の人間であってもしなければならないことだ。
私が頷くと、興味深そうに私を見つめていたエレスティーナ様にリディアスが話しかける。
「エレスティーナ殿下、紹介します。俺の婚約者のミリルです」
「はじめまして。ミリルと申します。王女殿下にお会いできて光栄です」
カーテシーをすると、エレスティーナ様はにっこり微笑んで口を開く。
「はじめまして。エレスティーナよ。知ってると思うけれど、ロードブル王国の王女なの。ここにはフラル王国とドーラ王国の問題を話し合いで解決できるようにしたいと思って来ているの。あなたがリディアスの妹のミリルなのね。会ってみたいと思っていたのよ」
いや、今のところ妹なのは確かなんですけど、リディアスは婚約者として紹介しましたよね?
間違っているわけでもないし、いちいち言い直してもらうほどのことでもないので、私は笑顔で頷く。
「はい。妹のミリルです。兄が大変お世話になっております」
「エレスティーナ殿下、彼女は俺の妹でもあり、婚約者でもあります」
リディアスが伝えると、エレスティーナ様は不満げな顔をする。
「いちいち言わなくても知っているわよ。リディアスが話していたように可愛らしい人ね。だけど、リディアスの隣に並ぶにはちょっと地味かしら」
「リディアス! 私のこと可愛いって言ってたの?」
本当は違うべきところに反応すべきなんだろうけど、悪意があるとわかっているだけに、わざと反応するのはやめて、違うことに驚いてみた。
「う、うるせぇな。だから、付き合う前からシスコンって呼ばれてたんじゃねぇか」
照れた様子のリディアスに私はニヤニヤしてしまったけれど、エレスティーナ様は眉根を寄せた。
「彼女と話したいことがあるので、ここで失礼します」
そんな彼女に気がついたのか、まだ何か言いたげなエレスティーナ様に一礼して、リディアスは食堂から私を連れ出したのだった。




