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【書籍発売中・コミカライズ連載開始】捨てられた第四王女は母国には戻らない WEB版  作者: 風見ゆうみ
第一部

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9  第三王女の恋 ② (シエッタ視点)

 社交界に復帰してから一年近く経つけれど、なかなか、わたしの好みの男性は見つからなかった。見た目が良いから話をしてみたら、へらへらしていたり頼りなかったりで、どうしてもイライラしてしまう。

 今日のパーティーは他国の若い男性も集めていると聞いたけど、わたしの目を引く男性はいない。今日も駄目なのかと諦めかけていたら、熱い視線を感じた。

 こんなことは慣れっこなのだけれど、一応振り返ってみると、整った顔立ちの若い男性がわたしを見つめていた。

うーん。悪くはないけれど、好みのタイプじゃないわね。

 そう思った瞬間、彼の隣にいる男性が目に入り、声にならない声をあげた。

 見つけたわ! わたしの王子様!

私が目を付けた男性は、美形だしスタイルも良い。気が強そうで少し悪びれた感じが、わたしにはたまらなかった。 


「決めたわ!」


 後ろに控えていた侍女にそう言うと、彼女の返事は待たずに歩き出し、彼に近寄っていくと、好みではないほうの男性が声を上げる。


「リ、リディアスさん! 彼女が、こ、こっちに来ましたよ!」


 リディアスという名前なのね。姓はなんというのかしら。あまり見ない顔だから、きっと他国の人間なのでしょう。


「そこのあなた! わたしの婚約者になる気はない?」


 声をかけたのに、リディアスは私を見ようともしない。代わりに関係のない男性のほうが「は、はい!」と元気よく返事をした。


「あなたじゃないわ。そっちのあなたよ!」


 そこでやっと、彼はわたしに目を向けた。

 ほら、わたしと目を合わせなさい。わたしに上目遣いで見つめられたら、どんな男だって引っかかるのよ。


「お断りさせていただきます」


 リディアスは触れようとしたわたしの手から逃れ、眉間にシワを寄せて言った。

 え?

 なんですって? お断りって言葉が聞こえたんだけど、何かの間違いよね。


「……今、なんと言ったの?」

「お断りさせていただきますと言いました」

「はあ?」


 呆然としていると、リディアスは主催の辺境伯令息に声をかける。


「悪いけど、今日はもう帰らせてもらう」

「あ、ああ。そのほうが良いだろう。気をつけて帰ってくれ。また、改めて話をしよう」

「早くに抜けてしまって悪いな。詫びの品を送るよ。その時にこちらの都合の良い日時を書いた手紙も同送する」

「詫びの品は気にしなくていいけど、手紙は待っているよ。あと、今回の件はハピパル王国の王家にも連絡しておいてほしい」

「わかった。では、失礼します」


 わたしが何も言えないでいる内に、二人は話を進めていき、リディアスはわたしに一礼して背を向ける。


「シエッタ殿下、引き続きパーティーをお楽しみください」


 辺境伯令息はそう言って一礼すると、逃げるようにこの場を離れていった。

 ど、どういうことなの⁉ 


「待って! さっきの彼は一体誰なの⁉」


 辺境伯令息に問いかけた時、リディアスの横に立っていた男性が話しかけてくる。


「あ、あの、僕は、あの人が誰か知っています」

「教えなさい」


 話しかけて来た相手が誰だかわからないけれど、そんなことはどうでも良かった。すると、男性はなぜかもじもじしてわたしを見つめる。


「そのかわり、僕のことを好きになってもらえますか?」


 この男は何を馬鹿なことを言っているのかしら。


「どうして、あなたを好きにならないといけないの? 私は王女なのよ? あの人が誰かくらい、あなたに教えてもらわなくたって他の人に聞けばわかるの」

「そ、そうですよね! あ、あの、僕にお手伝いをさせてください!」

「手伝う?」

「はい! 僕は彼の妹の婚約者なんです! 彼は妹を溺愛していることで有名です。妹を使って、彼をあなたのものにしましょう!」


 この人、どうしてわたしの力になりたがるのかしら。まあいいわ。リディアスはどうしてもわたしのものにしたいもの。

 これから先は、あまり人に聞かれたくない話ね。


「場所を移動しましょう。わたしに手を貸す、あなたのメリットも聞きたいことだし」

「はい!」


 男性は飛び跳ねて頷くと、後方にいた妖艶な女性に話しかける。


「ママ! いいよね?」

「ええ。フラル王国の王家の方と関わることができるなんて、とても有難いことですから、断る理由はないわ」


 ママと呼ばれた女性の目がきらりと光った気がした。

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