31 お茶会……ではなく、薬草茶会 ⑤
まずは、用意していた薬草鍋を見ることになった。昨日のうちに私が作って用意したものだから、相変わらず、火にかけていないのにボコボコと音を立てて煮立っているような見た目だ。
パトリック様は私が作った薬を見たことがあるようだけど、ルワナ様は初めてらしく、鍋の中身を見て目を丸くする。
「こ、これが薬なんですの? どちらかというと、毒に見えるんですけれど」
ま、まあ、それは最初はみんなに言われましたよ。だから、ダ、ダメージなんて受けない……うん。
「薬草と水しか入れていませんよ。調合のやり方や人の体質によっては体を害する場合もありますが、用法用量などを守れば、この鍋は咳止めの薬になります」
「そうなんですね」
コニファー先生の説明を聞いたルワナ様は、目を輝かせて頷いたけれど、すぐに眉根を寄せる。
「この見た目で本当に美味しいのでしょうか」
「ええ。どういう理由かはわからないのですが、見た目が悪い時は美味しいものになる可能性が高いですねぇ」
ですよね。見た目が悪いものは私が作ったものですから。
コニファー先生はルワナ様に微笑む。
「今日は体が弱っている時の栄養剤になる飲み物を作っておいたんです。ぜひ、飲んでみて味を確かめてください」
「それは楽しみですわ!」
ルワナ様は見学会を真剣に楽しんでくれているみたい。彼女とはあまりいい思い出はないけど、今はこの場にいてくれて助かるわ。
コニファー先生がいるから、パトリック様と二人きりになることはないと思う。だけど、万が一のことだってあるものね。それに今は薬師に詳しくないルワナ様のおかげで会話が途切れないで済むわ。
コニファー先生とルワナ様と三人で談笑していると、作業場を不躾に見回していたパトリック様が口を開く。
「あの、作っているところを見たいのですが」
「作っている所を見ても、多くの薬師がやっていることと変わりはありませんが」
「他人が見るからわかることがあると思います。僕もコニファー様のような薬を作れるようになりたいので勉強させてください」
今日のパトリック様はいつもの温和な雰囲気は消え去り、かなりナーバスになっている気がした。
王女殿下から、証拠を掴んでこいと急かされたりしたのかしら。彼らは薬を作っているのは私だと疑っている。もし、今回の件で美味しい薬を作っているのが、コニファー先生だったという結果になったら、どう報告するつもりなんだろう。
そんなことを考えつつも、コニファー先生が答える前に私が口を開く。
「コニファー先生、せっかくですし、簡単なものを作って見せてあげてはいかがでしょうか?」
「……そうねぇ。どうしても見たいようだし、今回は特別に見せて差し上げましょうか」
コニファー先生が頷くと、パトリック様は驚いた顔をした。
拒むと思っていたんでしょうけど残念でした。私たちだって何も考えてないわけじゃないんだから!
私の心の声に応えるかのように、ウエストポーチの中に入っているシイちゃんが一度だけ飛び跳ねた。
「何を作ろうかしらねぇ。リクエストはありますか?」
コニファー先生が尋ねると、ルワナ様が手を挙げる。
「短い時間ですもの。作れるものは限られていますわよね。あの、美容に良い薬……といいますか、飲み物は作れるのでしょうか」
「肌艶が良くなると言われているものでしたら、作れると思います」
「では、それをお願いしたいですわ!」
「パトリック様は何かございますか?」
「ぼ、僕は特にないです。とにかく不思議な力が宿る薬作りの工程を見せてください」
「承知いたしました」
コニファー先生はシイちゃんの力を知らない。だけど、私のことを信じてくれている。
コニファー先生は躊躇うことなく頷き、薬草の用意を始めた。パトリック様に監視されながらもコニファー先生が作った飲み物は、私が作った時と同じく黒に近い紫色でドロドロしていた。
そして、その効果は私が作った時と変わらず、自分の好きな飲み物の味になっており、全身の肌がツヤツヤで滑らかになったのだった。




