26 少し変わった友人関係 ④
「えーと、空気のような存在という話を信じる信じないかは別として、パトリック様の話はいつ聞いたんですか?」
「今日ですわ。昼休みに授業のことで担任の先生と話をしたいことがあって職員室に伺ったんですの。そうしたら、パトリック様が先に先生とお話をしておられたのです」
「昼休みなので少ないかもしれませんが、職員室には他にも人がいたんですよね?」
「いましたけれど、遠い席に数人いるだけでしたし、その先生たちは自分たちの会話に夢中でしたわ。それにパトリック様たちは小声で話をしておられたのです」
立ち聞きしただけじゃないの?
そんな風に疑う気持ちはある。だけど、シイちゃんなら彼女の話が嘘かどうかはわかるはずだ。今のところ、シイちゃんが私に何か伝えようとしていることはないから、彼女の言っていることは嘘ではない可能性が高い。
だけど、下敷きになったからって不思議な力が使えるようになるの? それってご褒美じゃないの?
……と文句を言いたくなったが、意識すると空気のような存在になるのなら、好きな人に相手にしてもらえないということだ。それは彼女にとっては罰かもしれない。
たとえパトリック様と上手くいったとしても、デート中とかに相手から姿が見えなくなってしまう感じってことよね。
自分に置き換えてみたら、リディアスとデート中、手を繋いで歩いていてもリディアスからは透明人間と手を繋いでいるように思われる、もしくは手の感触もなくて、私はどこに行った? って、目の前で探される感じかしら。
うん。そう考えたら、やっぱり罰といえば罰だわ。腹痛とどっちが辛いんだろう。というか、レイティン殿下の腹痛はシイちゃんの仕業だけど、ルワナ様の場合は神様からの罰といったところかしら。
「あの、どうかされました? もしかして、わたくしが見えていないのですか?」
ルワナ様がオロオロした様子で尋ねてきた。
ルワナ様が目の前にいることを忘れて考え込んでいたせいで、彼女に不安な思いをさせてしまったらしい。
眉尻を下げて私を見つめる彼女に苦笑して謝る。
「ごめんなさい。考えをまとめていました。見えていますから安心してください」
「それなら良かったですわ」
「で、どうして私にそんな話をするのですか?」
「先程も言いましたけれど、あなたが王家の石を持っていると思ったからです。だって、そうでしょう? あんな怪力の持ち主なんて初めて見ましたわ。あなたも不思議な力を与えられたんじゃなくって?」
……そうだった。ルワナ様を下敷きにしたシイちゃんはかなり大きくなっていたし、他の令嬢たちが動かそうとしてもびくともしなかった。
「あ、あの時はものすごく頑張ったんです」
自分でも思うけど苦しい言い訳だ。とにかく、シイちゃんと話をしないと。
「……そうですわよね。いきなり手のひら返しをしたわたくしに、そう簡単に秘密は話せませんわね」
ルワナ様は勝手に話を進める。
「きっと、パトリック様はあなたがコニファー様の弟子だから国に連れ帰りたいのでしょう。ですが、彼がわたくしを好きになれば、きっとわたくしを連れ帰ろうとするはずですわ」
す、すごくポジティブな発想だなあ。でも、パトリック様が私を国に連れ帰ろうとしなくなるのはありがたい。
たとえ、パトリック様がルワナ様と両思いになっても、私を連れ帰ろうとすることには変わりはない気がするが、彼がここにいる間、ルワナ様に相手をしてもらっていれば、のらりくらりとやり過ごすことができるかもしれない。
「わかりました。協力します。パトリック様を頑張ってゲットしてくださいね」
「もちろんですわ」
こうして、私とルワナ様の奇妙な協力関係……、というか、他の人とは少し変わった友人関係が出来上がったのだった。




