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【書籍発売中・コミカライズ連載開始】捨てられた第四王女は母国には戻らない WEB版  作者: 風見ゆうみ
第二部

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25  少し変わった友人関係 ③

「えーと、ルワナ様はパトリック様のことがお好きなのですか?」


 苦笑して尋ねると、ルワナ様は頬を赤らめて俯く。


「恋愛としての好きかどうかはわかりませんが、夫にするなら好ましい人だと思っていますわ」

「単刀直入にお聞きしますが、ルワナ様は優良な婚約者がほしいということですか?」

「そうです」


 躊躇う様子もなくルワナ様は大きく頷くと、自分の胸に手を当てて訴える。


「自分で言うのもなんですけれど、わたくしは美しい上に友人思いではないですか! そんな私に婚約者がいないだなんておかしいと思いませんか?」

「美しいのはわかりますが、友人思いかどうかは同じグループではないのでわかりません」

  

 どちらかというと、私にとっては嫌な人だ。特に取り巻きなんかは彼女の権力を笠に着て好き勝手しているから余計に腹が立つ。


「……あなたにとっては、私の印象は良くないですわね」


 ルワナ様は自分がしてきたことを思い出したのか、眉根を寄せて私から視線を逸らした。

 自分が嫌なことをしてきたとわかっているのは、まだマシかもしれない。意地悪をする人って相手が悪いからとか言って、自分を正当化しようとするのよね。


「おっしゃるとおり、あなたの印象は私の中では良くありません。ただ、リディアスのことで私のことを恨んでいるというのであれば同情はできます。かといって嫌がらせしようとしたことについて許すつもりはありません」

「……ごめんなさい。あなたが平気そうな顔をしているから、つい苛立ってしまって」

「人によって受け止め方は違います。私はくだらないと判断しましたが、あなたのやり方は人を傷つける可能性があったんですよ」


 人の机の中を勝手に触って何をするつもりだったんだろうか。教科書に何か書いたりするのは証拠を残すようなものだから、さすがにそんなことをするつもりはなかったと思う。大事なプリントをどこかに隠すとかそんな幼稚なものだったのだろうか。

 だったとしても、やっていいことではない。


「本当にごめんなさい。反省しております。許していただけませんか」


 この人は誰かに叱られたことがないんだろうか。私に少しキツく言われたくらいで、しゅんとしてしまった。お嬢様育ちでチヤホヤされてきたから、自分が言うのは良くても、人に言われるのは辛いといったところかしら。

 ただ、これくらいの謝罪で本当に反省していると信じる私ではない。


「許すかどうかはこれからのあなたの動き次第です。今回はパトリック様から上手く逃れることができたので、感謝の意を込めてここに来ただけで、あなたと仲良くするつもりはないのです。ですから、あなたに協力する筋合いもありません」


 きつい言い方だったかもしれない。だけど、私だって嫌なことをされてきた。これくらいは言ってもいいでしょう。幼い頃に家族だと思っていた人に酷いことをされて耐性がついていた私だから乗り越えられただけで、大してダメージを受けているように見えなかったでは済まされない。


「言いたいことはわかりますわ。では、パトリック様の件は諦めます。ただ、一つだけ聞いてほしいことがありますの。聞いていただけませんか。相談できる人がいないんですの」

「聞くだけなら……」


 渋々といった様子で頷くと、ルワナ様は個室だというのにテーブルに身を乗り出して小声で話す。


「あなたの石に攻撃されてから、なぜか異性を意識すると空気のような存在になるんですの」

「く、空気のような存在?」


 私から見たルワナ様は派手な見た目で、遠くからでも彼女だとわかるように思える。だから、そんなことを言われても信じられない。ただ、シイちゃんに攻撃されてからということが気になった。


「本当なんです。ですから、聞きたくないことまで聞けるようになってしまったんですの!」

「聞きたくないこと?」


 あまり気乗りしないまま聞き返した時、膝の上に置いていたポーチがごそごそと動いた。さりげなく確認してみると、シイちゃんが光っている。


 ちゃんと話を聞けということかしら。


 私の様子は気にせずに、ルワナ様は話し始める。


「私がすぐ近くにいるというのに、個人的な話を始めるのです。さすがに良くないことだと足を動かそうとしても声を出そうとしても動くことができず、そのまま話を聞いてしまうことになるのです」

「相手もあなたの存在に気がついていないのですか」

「そうなんですの」


 これは、帰ってシイちゃんに詳しく話を聞かなくちゃいけないわ。それに、何だか嫌な予感がする。


「パトリック様はあなたをロードブル王国に連れ帰るつもりですわよ」

「え!?」


 恐れていたことが現実に起こりそうだとわかり、私は礼儀を忘れて大きな声で聞き返してしまったのだった。

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