23 少し変わった友人関係 ①
リディアスには『浮気しないでね』という手紙を書いて送ったが、逆に彼から『浮気すんなよ』と言われそうな状況になってしまった。
それも、交換留学生のパトリック様のせいだ。
彼はなぜか私にだけ話しかけてくる。薬草学や薬師についての話だけならまだしも、プライベートな質問までしてくるから困っていた。
「ミリル、よかったら放課後にお茶をしないか? 薬草のことについていろいろと話をしたいんだ」
「パトリック様、申し訳ございませんが、私には婚約者がいますので、男性と二人でお茶をすることはできかねます」
「そうか。じゃあ、君の家に行こうか」
「じゃあの意味がわかりません!」
この人は遠回しに拒否されていることがわからないんだろうか。それともわかっていてやってる?
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか。僕は君と仲良くなりたいんだよね」
「十分、仲良くさせていただいているつもりです」
優しい笑みを浮かべているように見えるけれど、今までの多くの悪意を含んだ視線を浴びてきた私にはわかる。
彼は笑顔を作っているだけで、本気で笑っていない。
お母様に相談してみたところ、エレスティーナ様の指示で私に近づこうとしているのではないかとのことだった。
私に近づく理由は、私をロードブル王国に引き抜くためだと思われる。パトリック様は見た目は素敵な人だし、誘惑すれば私が彼にころりと落ちると思われているのかもしれない。
私にはリディアスがいるし、何より、私の中での一番のイケメンはシイちゃんだ。
……石に性別はないと思うけど、話す雰囲気が男の子っぽいから!
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」
パトリック様が私に手を伸ばしてきたので、ポーチの中のシイちゃんが動いた時だった。
「駄目ですわ! 今日の放課後、ミリルさんはわたくしと出かける予定ですから!」
会話に入ってきたルワナ様は、私の腕を掴んでそう言った。
「へえ、いいなあ。良かったら僕も一緒に行ってもいいかな?」
「パトリック様、申し訳ございませんが、女性の集まりに男性は不要ですわ」
「あ……、え、はい」
ルワナ様に圧をかけられ、パトリック様は何度か頷いたあと、何か言いたそうにしながらも、この場を去ってくれた。
まさか、ルワナ様に助けてもらうとは思っていなかった。……あれかな。パトリック様は自分が狙っているから、お茶になんて行かせてたまるもんですかってやつかしら?
「あの、ありがとうございました」
困惑しながらもお礼を言うと、ルワナ様は私に額をくっつけんばかりの勢いで顔を寄せると、低い声で話す。
「今日はわたくしにつきあってくださいますわよね?」
『オラオラ』という言葉が聞こえてきそうな怖い形相のルワナ様に引いてしまった私だったが、助けてもらったことに変わりはないし、今日の放課後は特に予定があるわけでもない。
「わ、私なんかと一緒にお茶をしてくださるんですか?」
私のことを嫌ってますよね、とはさすがに口に出さなかった。
すると、ルワナ様は眉根を寄せて答える。
「わたくしはパトリック様にあなたと行くとお伝えしたのですが?」
「え……あ、そうでしたね。では、よろしくお願いいたします。あ、あの、お代はこちらで持ちますので、場所を決めていただいても良いですか?」
私のお気に入りの店に文句を言われてはたまらない。ここは相手に選ばせるのが一番!
「かまわないわ。では、わたくしのお気に入りの店があるので、そちらにいたしましょう。お代のことは気にしなくて結構よ」
こうして私は、放課後にルワナ様と一緒に、お茶をすることになったのだった。




